荷電粒子の運動
プラズマは無数の荷電粒子の集まりです。その振る舞いを理解する第一歩は、たった 1 個の粒子が電場と磁場の中でどう動くかを知ることです。このページでは、磁場に巻きつく螺旋運動から、粒子がじわじわ横滑りするドリフト、磁気ミラーによる閉じ込め、トカマク特有のバナナ軌道、そして現代の数値計算を支えるジャイロ運動論(gyrokinetics)までを、順を追って説明します。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”磁場の中を動く電気を帯びた粒子には、動く向きと磁場の向きの両方に垂直な力がはたらきます。これをローレンツ力(Lorentz force)と呼びます。手のひらを使う「フレミングの左手の法則」で向きを決めた、あの力です。
大事なのは、この力がいつも進行方向に対して真横を向くことです。真横に押され続けると、粒子はまっすぐ進めず、くるくると円を描きます。ハンマー投げの選手がロープでハンマーを引っぱると、ハンマーが円を描いて回るのと同じで、磁場が見えないロープの役目をして粒子を回し続けるのです。この円運動をサイクロトロン運動(cyclotron motion)と呼び、円の半径をラーモア半径(Larmor radius)と呼びます。
磁場が強いほどロープを強く引くことになるので、円は小さくなります。粒子が速いほど、遠心力に負けないよう大きく回るので、円は大きくなります。核融合装置の中では磁場がとても強いため、この円はイオンで数ミリ、電子ではその 100 分の 1 ほどしかありません。装置の大きさは数メートルですから、粒子は自分のいる場所にほとんど貼りついたまま、磁力線という細い糸に巻きついて動くイメージになります。これが「磁場で閉じ込める」ことの出発点です。
ただし、粒子は磁場に沿った向き(糸に沿った向き)には自由に動けます。ですから全体としては、磁力線に巻きつきながら磁力線に沿って進む、バネのような螺旋を描きます。さらに、別の力がかかったり磁場に強弱のムラがあったりすると、この螺旋の中心そのものがゆっくり横へずれていきます。この横滑りがドリフト(drift)で、核融合装置を設計するうえで最重要の現象です。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”荷電粒子の運動方程式はローレンツ力で書けます。
ここで は質量、 は電荷、 は速度、 は電場、 は磁場です。右辺の第 2 項 が磁場による力で、 と の両方に垂直です。
電場がなく一様な磁場だけの場合、粒子は磁場に垂直な面内で等速円運動をします。その角周波数がサイクロトロン周波数(cyclotron frequency)です。
質量 に反比例するので、同じ磁場でも軽い電子は重いイオンよりずっと速く回ります。重水素イオンと電子の質量比はおよそ 3670 なので、電子はイオンの約 3700 倍の速さで回転します。回転半径がラーモア半径(Larmor radius、ジャイロ半径とも)です。
ここで は磁場に垂直な速度成分です。目安として、温度 10 keV、磁場 5 T のプラズマでは、電子のラーモア半径が約 0.05 mm、重水素イオンが約 4 mm、核融合で生まれる 3.5 MeV のアルファ粒子が約 5 cm になります。装置サイズより 2〜4 桁小さいことが、磁場閉じ込めが成り立つ理由です。
粒子の詳しい螺旋運動を追う代わりに、螺旋の中心(案内中心、guiding center)の動きだけを追う近似を案内中心近似(guiding-center approximation)と呼びます。ラーモア半径が磁場の変化スケールよりずっと小さいときに有効で、速いサイクロトロン回転を平均化して消し、ゆっくりしたドリフトだけを取り出します。
もっとも基本的なドリフトが ドリフト(E cross B drift)です。磁場に垂直な電場 があると、案内中心が次の速度で横滑りします。
この式には も も入りません。つまり電子もイオンも、電荷の符号によらず同じ向き、同じ速さで動きます。全粒子が一緒に動くので電流を生みません。物理的には、電場で加速される半周と減速される半周でラーモア半径が変わり、円がずれていくために生じます。
磁場に強弱のムラがあると grad-B ドリフト(grad-B drift)が生じます。
磁場が強い側でラーモア半径が小さく、弱い側で大きくなるため円がゆがみ、案内中心が横へずれます。式に が入るので、電子とイオンは反対向きにドリフトし、電流が発生します。
磁力線が曲がっていると、それに沿って走る粒子は遠心力を感じ、曲率ドリフト(curvature drift)が生じます。曲率半径を とすると
となり、平行速度 の遠心効果が原因です。これも を含むので電荷分離を起こします。この 2 つのドリフトが、純トロイダル磁場だけでは閉じ込めが成り立たない根本原因になります。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”案内中心運動には、近似的に保存される量である断熱不変量(adiabatic invariant)が階層的に存在します。最も基本的なのが磁気モーメント(magnetic moment)です。
は、磁場がラーモア周期に比べてゆっくり変化する限り、第 1 断熱不変量として保存されます。これは作用変数 がサイクロトロン運動について不変であることに対応します。
の保存から磁気ミラー(magnetic mirror)が導けます。粒子が強磁場領域へ進むと、 が増えるぶん が増え、全エネルギー保存から が減ります。ある点で がゼロになれば粒子は跳ね返されます。捕捉されるかどうかは、弱磁場側 と強磁場側 の比で決まるピッチ角の条件で決まり、ミラー比 が大きいほど広い角度範囲の粒子を捕捉できます。逆に、平行速度が大きくピッチ角が小さい粒子は跳ね返されずに抜けてしまい、これがロスコーン(loss cone)です。この原理を装置化したのがミラー型装置です。
トカマクでは、磁場が装置の内側(トーラス中心に近い側)で強く、外側で弱くなります。この不均一のため、ピッチ角の大きい粒子はトーラスを一周する前に外側の弱磁場領域で跳ね返され、内側の強磁場領域との間を往復します。捕捉粒子の割合はアスペクト比で決まり、標準的なトカマクではおよそ 7 割前後に達します。
捕捉粒子を磁力線に沿った面(ポロイダル断面)で見ると、grad-B ドリフトと曲率ドリフトによって行きと帰りの軌道がずれ、三日月のような形になります。これがバナナ軌道(banana orbit)です。バナナ軌道の幅はラーモア半径の数倍に達し、この有限な軌道幅が輸送を大きく左右します。捕捉粒子の往復運動(バウンス運動)にも第 2 断熱不変量(縦断不変量、longitudinal invariant)が対応します。
衝突頻度とバウンス頻度の比であるコリジョナリティ(collisionality)が輸送レジームを決めます。核融合プラズマのコアは弱衝突のバナナレジームにあり、捕捉粒子がバナナ軌道を完成させる間に何度も往復できます。このとき生じる拡散が新古典輸送(neoclassical transport)で、単純な古典拡散よりバナナ幅の効果で数十倍大きくなります。詳しくは輸送を参照してください。新古典理論はブートストラップ電流(bootstrap current)など、圧力勾配が自発的に電流を駆動する効果も予言します。
これらのドリフト運動論は、より完全な運動論的記述であるジャイロ運動論(gyrokinetics)につながります。ジャイロ運動論では、速いサイクロトロン運動を解析的に平均化して自由度を 1 つ減らし、5 次元の位相空間(案内中心の 3 次元位置と平行速度、磁気モーメント)で分布関数の発展を追います。これにより、乱流のような遅い現象を、サイクロトロン運動の短い時間スケールに邪魔されずに数値的に扱えます。単一粒子のドリフト描像は、この大規模シミュレーションを支える物理的土台になっています。マクロな流体近似であるMHDとは相補的な関係にあります。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”単一粒子・案内中心の描像は古典的ですが、それを土台にした現代的な課題が活発に研究されています。
核融合炉で生まれる高速のアルファ粒子(alpha particle)の閉じ込めは重要なテーマです。アルファ粒子はラーモア軌道やバナナ軌道が大きく、しかもプラズマ中の波動と共鳴して、アルヴェン固有モード(Alfven eigenmode)と呼ばれる不安定性を励起します。これが高速イオンを異常に速く外へ運び出す可能性があり、加熱効率や炉壁への負荷に関わるため、非線形の粒子・波動相互作用として研究されています。
ステラレータ(stellarator)では、磁場が本質的に 3 次元で、放っておくと粒子軌道が閉じずに大きな新古典輸送を招きます。そこで、案内中心軌道が良く閉じ込められるよう磁場配位を設計する準対称性(quasi-symmetry)や全方位性(omnigenity)の最適化が進められ、数値最適化で得た配位が実機で検証されています。
ジャイロ運動論に基づく乱流輸送シミュレーションは、コード間比較や実験との検証が続く分野です。運動論的電子、電磁効果、多イオン種、実形状を同時に扱う大規模計算が求められ、計算コストの削減や、輸送を機械学習で高速に代理する縮約モデルの開発も進んでいます。
理論面では、断熱不変量の破れも研究対象です。磁場の時間変化が速い領域や、軌道が分岐する共鳴領域では の保存が崩れ、粒子が予期せぬ軌道へ乗り移ることがあります。こうした非断熱過程やカオス的軌道は、高速イオン損失やダイバータへの熱流入を理解するうえで重要とされています。論文では guiding-center、gyrokinetics、neoclassical、banana orbit、Alfven eigenmode といった語が頻出します。