大型ヘリカル装置(LHD)
大型ヘリカル装置(LHD:Large Helical Device)は、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所(NIFS:National Institute for Fusion Science)が運営する、世界最大級のヘリカル型核融合実験装置です。1998 年に最初のプラズマを生成して以来、ねじれた磁場でプラズマを閉じ込める方式の研究をリードしてきました。このページでは、LHD がどんな装置なのかを直感的につかんだうえで、その物理と工学、そして 2020 年代の新しい役割までを順に見ていきます。
この装置をひとことで(高校レベル)
Section titled “この装置をひとことで(高校レベル)”核融合を起こすには、太陽の中心より高温の 1 億度を超えるプラズマ(原子核と電子がばらばらになった気体)を、容器の壁に触れさせずに空中に浮かせて閉じ込める必要があります。プラズマは電気を帯びた粒子の集まりなので、磁石の力(磁場)でつかまえることができます。
LHD が採用しているのは、ヘリオトロン(heliotron)と呼ばれるねじれた磁場のかごを作る方式です。ドーナツ形(トーラス)の容器のまわりに、らせん状にねじれた 2 本のコイルを巻きつけます。このコイルに電流を流すだけで、プラズマを閉じ込めるのに必要なねじれた磁場が自然にできあがります。
ここが LHD の一番わかりやすい強みです。もう一つの代表的な方式であるトカマク(tokamak)は、プラズマ自身に大きな電流を流して磁場のねじれを作ります。ところが LHD のヘリオトロン方式は、外側のコイルだけで磁場を完成させるので、プラズマの中に電流を流す必要がありません。プラズマ電流に頼らないということは、電流が急に消えて閉じ込めが壊れる事故(ディスラプション)が原理的に起きにくく、しかも運転を長く続けやすい、という大きな利点につながります。この「ずっと安定して運転を続けられる」という性質が定常性(steady-state capability)で、LHD のもっとも得意とするところです。
装置の物理と工学(学部〜大学院レベル)
Section titled “装置の物理と工学(学部〜大学院レベル)”ヘリオトロン配位と磁場のつくりかた
Section titled “ヘリオトロン配位と磁場のつくりかた”LHD は L=2、M=10 のヘリオトロン配位を採用しています。L は 1 本のヘリカルコイルがトーラスの断面を一周する間にらせんが何回ねじれるかを表す極数、M はコイルがトーラスを一周する間のらせんのピッチ数(field period)です。この配位により、2 本の連続したヘリカルコイルがトーラスを 10 周し、プラズマ閉じ込めに必要な回転変換(rotational transform)を外部コイルだけで作り出します。
主要パラメータは、大半径がおよそ 3.9 m(磁気軸位置を可変にできます)、平均小半径が約 0.6 m、最大磁場が 3 T です。ポロイダルコイルで磁気軸の位置を内側や外側にずらすことで、閉じ込め性能を重視した配位と、大きなプラズマ体積を確保する配位を切り替えられます。
閉じ込めの良さを表す代表的な指標がエネルギー閉じ込め時間(energy confinement time) です。これは、蓄えたプラズマのエネルギー を加熱パワー で割った量として、
と定義されます。 が長いほど、同じ加熱で高温を保ちやすいことを意味します。ヘリカル系の閉じ込め時間は、装置サイズや磁場、密度、加熱パワーを使った国際的な経験則(スケーリング則)で整理されており、LHD はその基礎データを大量に提供してきました。
超伝導コイルという工学
Section titled “超伝導コイルという工学”LHD の心臓部は、超伝導のヘリカルコイルです。導体には NbTi/Cu 系の超伝導材料を使い、液体ヘリウム温度(約 4 K、絶対零度に近い低温)まで冷やして電気抵抗をゼロにします。抵抗がゼロなので、いったん電流を流せばコイルは発熱せず、強い磁場を長時間ずっと維持できます。この超伝導による定常磁場こそが、LHD が長時間運転を得意とする工学的な土台です。
プラズマの加熱には、複数の方式を組み合わせて 20 MW を超える大電力を投入できます。中性粒子ビーム入射(NBI:Neutral Beam Injection)は、高速の中性原子をプラズマに撃ち込んで加熱する主力の方式です。加えて、電子サイクロトロン加熱(ECH:Electron Cyclotron Heating)はマイクロ波で電子を、イオンサイクロトロン加熱(ICRF:Ion Cyclotron Range of Frequency)は電波でイオンを直接あたためます。
定常運転という実績
Section titled “定常運転という実績”LHD の代表的な成果の一つが、長時間の定常放電です。プラズマ電流に頼らず超伝導コイルで磁場を保つ利点を生かし、数十分オーダーにわたってプラズマを維持し、その間に投入した加熱エネルギーの総量でも高い実績を示しました。核融合を発電として成立させるには、パルス的に一瞬だけ燃やすのではなく、長時間安定して燃やし続けることが不可欠です。ヘリカル系ならではの定常性は、この課題に対する具体的な答えの一つを示しています。
高温の達成と重水素実験
Section titled “高温の達成と重水素実験”2017 年、LHD は重水素(deuterium、水素の同位体)を使う実験に踏み込み、イオン温度でおよそ 1 億 2000 万度(約 10 keV)を達成しました。温度をエネルギーの単位で表すのは、プラズマ物理では を ( はボルツマン定数)として扱うためで、1 keV はおよそ 1160 万度に相当します。この高温達成は、ヘリオトロン配位でも核融合に必要な超高温プラズマを実現できることを示す重要な結果でした。
重水素実験には、もう一つ物理的なねらいがあります。プラズマを構成する粒子の質量(同位体)が変わると閉じ込め性能がどう変化するかという同位体効果(isotope effect)を、水素プラズマとの比較で系統的に調べられることです。この効果を理解することは、実際の核融合炉が使う重水素とトリチウムの混合プラズマの性能を予測するうえで欠かせません。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”LHD が果たしてきた大きな役割は、3 次元磁場配位(3D magnetic configuration)の物理を実験で解き明かすことです。トカマクの磁場が近似的に軸対称なのに対し、ヘリカル系の磁場は本質的に 3 次元構造を持ちます。この違いは、粒子や熱がどのように装置の外へ逃げていくかという輸送(transport)の問題に直結します。とくに衝突頻度が低い領域では、新古典輸送(neoclassical transport)と呼ばれる、磁場の 3 次元構造に敏感な輸送が効いてきます。LHD はこの新古典輸送や、径電場(radial electric field)の自発的な形成、乱流による異常輸送(anomalous transport)などを詳細に計測し、ステラレータ/ヘリオトロン系の輸送理論を検証する基盤を築いてきました。
論文でよく出会うキーワードとしては、新古典輸送(neoclassical transport)、径電場(radial electric field)、ブートストラップ電流(bootstrap current)、国際ステラレータスケーリング(International Stellarator Scaling)、そして高密度領域を扱う超高密度コアなどがあります。これらは、ヘリカル系プラズマの閉じ込めを理解するための共通言語になっています。
研究の位置づけも 2020 年代に入って変化しています。LHD は重水素実験を経て、単一装置での記録更新を追う段階から、ヘリカル系で得られた 3 次元プラズマの知見を広く共有する学術研究プラットフォームとしての役割へと軸足を移しつつあります。ここで蓄積された 3 次元配位の物理は、ドイツの Wendelstein 7-X をはじめとする世界のステラレータ研究や、将来の核融合炉設計にも生かされています。まだ解かれていない課題も残されており、たとえばヘリカル系で高いプラズマ圧力(高ベータ)を安定に保つ条件や、炉心と壁のあいだの熱・粒子の制御をどう最適化するかが、現在も活発に研究されています。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”関連トピック
Section titled “関連トピック”- ステラレータ/ヘリカル方式: LHD が属するステラレータ/ヘリオトロン方式の閉じ込め原理を基礎から学べます。
- プラズマの輸送: 新古典輸送や異常輸送など、LHD の研究テーマの中心にある輸送現象を詳しく解説します。