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プラズマ加熱の原理

核融合炉の中心部を約 1 億度という途方もない温度まで持ち上げるには、どんな物理を使えばよいのでしょうか。このページでは、なぜそれほどの高温が必要なのか、そしてプラズマを加熱する主要な方法がどんな物理原理で成り立っているのかを、身近なたとえから研究の最前線まで順番に見ていきます。実際の加熱装置の工学的な作り込みは 加熱装置 に譲り、ここでは「なぜ加熱できるのか」という物理に集中します。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

核融合とは、軽い原子核どうしがぶつかって融合し、大きなエネルギーを放出する反応です。ところが原子核はどれもプラスの電気を帯びているので、近づこうとすると電気の力で強く反発し合います。磁石の同じ極どうしを押し付けようとするときの、あの手応えを想像してください。原子核どうしを融合させるには、この反発を振り切るほどの勢いで衝突させる必要があります。

勢いよく衝突させるとは、つまり粒子を高速で飛び回らせるということです。気体の温度とは、その中の粒子がどれだけ激しく動き回っているかの目安です。温度を上げれば粒子は速くなり、正面衝突する確率も、反発を突き破って融合する確率も高まります。核融合に約 1 億度が必要なのは、原子核どうしの電気的な反発を粒子の運動の激しさで乗り越えるためなのです。

では、どうやってそこまで温めるのでしょうか。方法は大きく三つの発想に分けられます。一つ目は、電気を流して抵抗で温める方法です。電気ストーブのニクロム線が赤熱するのと同じで、プラズマ自身に電流を流してジュール熱で温めます。二つ目は、外から高速の粒子を撃ち込む方法です。すでに猛烈に速い粒子の弾丸を注入し、玉突きでまわりの粒子に勢いを分け与えます。三つ目は、電子レンジのように電磁波を当てる方法です。プラズマ中の粒子が自然に持つ回転のリズムにぴったり合った波を送り込むと、ブランコを押すタイミングを合わせたときのように、粒子がぐんぐん加速されます。

そして核融合が本格的に始まると、反応そのものが発する熱で炉が自分自身を温め始めます。これがうまく回り出せば、外からの加熱を切ってもプラズマは燃え続けます。焚き火に最初はマッチで火をつけるけれど、いったん薪が燃え上がれば火は自分で持続する、あのイメージです。この自立した状態を核融合では点火(ignition)と呼びます。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

まず「1 億度が必要」をもう少し定量的にとらえましょう。温度 TT とは粒子の平均運動エネルギーの尺度であり、プラズマ物理ではエネルギーの単位である電子ボルト(eV)で温度を表すのが慣習です。換算は 1 keV1.16×107 K1\ \mathrm{keV} \approx 1.16 \times 10^7\ \mathrm{K} なので、約 1 億度は約 10 keV に相当します。核融合反応が起こる確率を表す反応断面積は温度とともに急激に増え、D-T 反応(重水素と三重水素の反応)では 10 keV から数十 keV の領域で実用的な反応率に達します。どれだけの高温をどれだけの時間、どれだけの密度で保てば正味の出力が得られるかは ローソン基準 が定めています。

一つ目の加熱方式であるオーム加熱(ohmic heating)を見てみましょう。トカマクでは中心ソレノイドの磁束を時間変化させ、変圧器の二次巻線のようにプラズマ中に電流 IpI_p を誘導します。この電流がプラズマの電気抵抗によってジュール熱を生みます。加熱パワーは PΩ=ηj2P_\Omega = \eta j^2 で表され、jj は電流密度、η\eta はプラズマの電気抵抗率です。ここが重要な点で、プラズマの抵抗率(スピッツァー抵抗率)は温度とともに下がり、ηT3/2\eta \propto T^{-3/2} という関係を持ちます。プラズマは熱くなるほど電気を通しやすくなるのです。

この温度依存性のため、オーム加熱は温めれば温めるほど効きが悪くなります。抵抗が下がればジュール熱も減るからです。結果として、オーム加熱だけで到達できるのはおよそ 1 keV から 3 keV 程度にとどまり、核融合に必要な 10 keV には遠く及びません。ここから先を埋めるのが、外部から投入する追加熱(additional heating)です。

二つ目の追加熱が中性粒子ビーム入射(neutral beam injection, NBI)です。原理はこうです。まず重水素などのイオンを電場で高エネルギーまで加速し、次にそれを中性化セルに通して電子を付け加え、電気的に中性な高速原子のビームに変えます。なぜ中性にするかというと、荷電粒子のままでは炉のまわりの強い磁場に曲げられてプラズマ中心まで届かないからです。中性の原子は磁場に曲げられずまっすぐ飛び込み、プラズマ中で電子をはぎ取られて再びイオンになり、そこからクーロン衝突を繰り返してまわりの粒子にエネルギーを分け与えます。

三つ目が波動加熱(wave heating)で、共鳴という現象を使います。磁場 BB の中では、荷電粒子はローレンツ力を受けて磁力線に巻きつくように円運動します(詳しくは 荷電粒子の運動 を参照)。この回転の角周波数はサイクロトロン周波数と呼ばれ、ωc=qB/m\omega_c = qB/m で決まります。ここで qq は電荷、mm は質量です。この回転リズムに一致した周波数の電磁波を送り込むと、波の電場が常に同じ向きに粒子を押し続けるため、効率よくエネルギーが渡されます。ブランコと同じ共鳴の原理です。質量が大きいイオンは周波数が低く(数十 MHz 帯、イオンサイクロトロン共鳴加熱 ICRF)、質量が小さい電子は周波数が高くなります(100 GHz 超のミリ波、電子サイクロトロン共鳴加熱 ECRH)。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

波動加熱の共鳴条件は、単純なサイクロトロン周波数の一致だけでは記述できません。プラズマ中を伝わる波は運動する粒子から見ると、粒子自身の運動によって周波数がずれて見えます。これを取り込んだ共鳴条件がドップラーシフトを含む形

ωkv=nωc\omega - k_\parallel v_\parallel = n \omega_c

です。ω\omega は波の周波数、kk_\parallel は磁力線方向の波数、vv_\parallel はその方向の粒子速度、nn は整数の高調波番号です。左辺は粒子とともに動く座標系から見た波の周波数を意味し、それがサイクロトロン周波数の整数倍に一致するときに共鳴が起こると読み下せます。n=1n=1 が基本共鳴、n=2n=2 以上が高調波共鳴です。

イオンサイクロトロン共鳴加熱(ion cyclotron resonance heating, ICRF)では、単一のイオン種だけのプラズマは波の吸収が弱いという事情があります。そこで少量の異なるイオン種(水素やヘリウム 3 など)を混ぜ、その少数種のサイクロトロン共鳴を利用する少数イオン加熱(minority heating)が広く使われます。少数種が波から選択的にエネルギーを受け取って高速イオンとなり、それがクーロン衝突を通じて主イオンと電子を温めるという二段構えの機構です。

電子サイクロトロン共鳴加熱(electron cyclotron resonance heating, ECRH)の大きな利点は、加熱の局所性です。共鳴が起こる位置は ω=ωc(r)=qB(r)/m\omega = \omega_c(r) = qB(r)/m を満たす場所に限られ、トカマクの磁場は半径方向に大きく変化するため、共鳴面は空間的に狭い領域に定まります。この性質を使えば、加熱パワーを狙った半径位置にピンポイントで注入でき、後述する MHD 不安定性の局所制御に応用できます。

これらの加熱手法は同時に電流駆動(current drive)の役割も果たします。トカマクを定常運転するには、変圧器作用に頼らずプラズマ電流を維持する必要があります。波動や粒子ビームによって荷電粒子の分布関数を磁力線方向に非対称にゆがめれば、正味の電流が生まれます。低域混成波電流駆動(lower hybrid current drive, LHCD)は、イオンと電子のサイクロトロン周波数の中間にある低域混成波を使い、電子の速度分布の裾を選択的に加速して電流を駆動します。単位パワーあたりの電流駆動効率が高い一方で、波がプラズマ中心まで浸透しにくく、周辺部の電流分布制御に向くという特徴があります。電子サイクロトロン電流駆動(electron cyclotron current drive, ECCD)は駆動効率では劣りますが、共鳴の局所性ゆえに新古典テアリングモード(neoclassical tearing mode, NTM)のような磁気島を局所的に狙って抑制でき、安定化ツールとして重要です。

最後にアルファ粒子自己加熱(alpha particle self-heating)です。D-T 反応は D+Tα+n\mathrm{D} + \mathrm{T} \rightarrow \alpha + n で 17.6 MeV を放出し、そのうち 3.5 MeV をアルファ粒子(ヘリウム 4 の原子核)が、14.1 MeV を中性子が担います。中性子は電気的に中性なので磁場に閉じ込められずブランケットへ抜けますが、荷電粒子であるアルファ粒子は磁場に閉じ込められ、クーロン衝突でエネルギーをプラズマに落として自らを温めます。加熱効率の指標である核融合利得 QQ(核融合出力を外部加熱入力で割った値)を使うと、アルファ加熱パワーは全核融合出力の 5 分の 1 なので、外部加熱パワー PextP_{\mathrm{ext}} に対するアルファ加熱パワーの比は Pα/Pext=Q/5P_\alpha / P_{\mathrm{ext}} = Q/5 となります。Q=5Q=5 で外部加熱と同等、QQ \to \infty が外部加熱ゼロで自立する点火(ignition)に対応します。ITER が目指す Q10Q \geq 10 は、50 MW の入力に対して 500 MW の核融合出力を得る状態を意味し、アルファ加熱が外部加熱の 2 倍を担う燃焼プラズマ(burning plasma)の領域です。

研究の最前線(博士課程レベル)

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現在、加熱物理の最前線は「高速イオンと燃焼プラズマの物理」に集約されつつあります。NBI や ICRF で生成される高速イオン、そして核融合で生まれるアルファ粒子は、熱的な背景プラズマよりはるかに高いエネルギーを持ちます。この高速イオン(fast ions / energetic particles)が背景プラズマとどう相互作用し、どう閉じ込められるかが、燃焼プラズマを設計する上での核心的な問いとなっています。

とりわけ活発に研究されているのが、高速イオンが駆動するアルフベン固有モード(Alfvén eigenmodes)です。高速イオンの速度がプラズマ中のアルフベン波の速度と共鳴すると、トロイダルアルフベン固有モード(toroidal Alfvén eigenmode, TAE)をはじめとする波が不安定化されます。これらのモードは高速イオンを本来閉じ込められるべき領域から外へはじき出し、アルファ粒子の異常輸送(anomalous transport)を引き起こす可能性があります。アルファ粒子が加熱に寄与する前に壁へ逃げてしまえば自己加熱が損なわれ、しかも局所的な熱負荷で壁を傷める恐れもあるため、燃焼プラズマの成立に直結する問題として研究されています。

理論・数値の面では、高速イオンの分布は熱平衡から大きく外れているため、速度空間を陽に扱う運動論的(kinetic)な記述が不可欠です。分布関数の時間発展を追うジャイロ運動論(gyrokinetics)シミュレーションや、MHD と運動論効果を結合したハイブリッドモデルによって、アルフベン固有モードの非線形飽和や高速イオン輸送の予測が進められています。ITER や将来の原型炉におけるアルファ粒子の閉じ込めをどこまで正確に外挿できるかが問われています。

加熱と電流駆動の統合的な最適化も重要なテーマです。定常トカマクを実現するには、外部電流駆動と、圧力勾配から自発的に生まれるブートストラップ電流(bootstrap current)を組み合わせ、望ましい電流分布と圧力分布を同時に成り立たせる必要があります。ECCD による NTM 抑制、加熱位置の実時間フィードバック制御、複数の加熱手法を組み合わせて輸送障壁を形成する高性能運転シナリオの構築などが、統合シミュレーションと実験の両面から追求されています。論文では energetic particle physics、alpha particle confinement、Alfvén eigenmode、burning plasma、integrated modeling といったキーワードが頻出します。

問 1. 核融合に約 1 億度もの高温が必要なのはなぜですか。
問 2. オーム加熱だけでは核融合に必要な温度に届かないのはなぜですか。
問 3. 中性粒子ビーム入射で、加速したイオンをわざわざ中性化してから入射するのはなぜですか。
問 4. 電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)が MHD 不安定性の局所制御に使えるのはなぜですか。
問 5. 核融合利得 Q = 10 の燃焼プラズマでは、アルファ粒子の自己加熱は外部加熱の何倍のパワーを担いますか。