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ブランケット

ブランケットは、核融合炉の中でプラズマを毛布のように取り囲む機器です。プラズマから飛んでくる中性子を受け止めて熱に変え、同時に燃料であるトリチウムをみずから作り出します。このページでは、なぜこの「毛布」が必要なのか、どうやってトリチウムを増やすのか、そしてなぜ増殖ブランケットの実証が核融合最大級の未解決課題なのかを、順を追って理解できるようにします。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

D-T 反応(重水素と三重水素の核融合)では、生まれたエネルギーの約 8 割が中性子として飛び出します。中性子は電気を帯びていないので磁場で閉じ込められず、プラズマの外へまっすぐ飛んでいきます。この中性子をそのまま逃がしてしまっては、せっかくのエネルギーが取り出せません。そこでプラズマの周りを分厚い層でぐるりと囲み、中性子を受け止めます。これがブランケット(blanket、毛布の意味)です。

毛布と呼ばれるのは、プラズマを外側から包み込む形だからです。この毛布には大きく二つの役目があります。

一つ目は、熱を受け取ることです。飛んできた中性子はブランケットの中の物質にぶつかって速度を落とし、そのエネルギーが熱に変わります。この熱で水を沸かして蒸気を作り、タービンを回して発電します。つまりブランケットは発電所のボイラーにあたる部分です。

二つ目は、燃料を自分で作ることです。ここがブランケットの一番おもしろいところです。燃料の片方であるトリチウム(三重水素)は、自然界にほとんど存在しません。半減期が約 12 年と短く、放っておくと減っていくからです。世界中を探しても核融合炉を動かし続けられるだけの量はありません。そこでブランケットの中にリチウムという金属を入れておきます。飛んできた中性子がリチウムにぶつかると、リチウムがトリチウムに変身するのです。使った分の燃料を、炉が動きながら自分で補充する仕組みです。

イメージとしては、薪ストーブが燃えながら自分で薪を作り出しているようなものです。しかも作る薪は、燃やした量よりわずかに多くなければなりません。配管の途中で失われる分や、次の炉に渡す分を見込む必要があるからです。この「燃やした以上に作れるか」が、核融合を実用化できるかどうかの決定的な分かれ目になります。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

トリチウムを作る反応には、リチウムの二つの同位体が関わります。主役はリチウム 6 です。

6Li+n4He+T+4.78 MeV^{6}\text{Li} + n \rightarrow {}^{4}\text{He} + \text{T} + 4.78\ \text{MeV}

この式は、リチウム 6 が中性子 nn を吸収すると、ヘリウム 4 とトリチウム T に分かれ、さらに 4.78 MeV の熱を出すという意味です。エネルギーを放出する発熱反応なので、ゆっくりした中性子(熱中性子)でも反応が進みます。天然リチウムに含まれるリチウム 6 はわずか 7.5% ほどなので、実際のブランケットではリチウム 6 の割合を人工的に高めた濃縮リチウムを使います。

もう一つはリチウム 7 の反応です。

7Li+n4He+T+n2.47 MeV^{7}\text{Li} + n \rightarrow {}^{4}\text{He} + \text{T} + n' - 2.47\ \text{MeV}

こちらはエネルギーを奪う吸熱反応で、中性子の運動エネルギーが 2.47 MeV を超えないと起こりません(閾値反応)。注目すべきは右辺に中性子 nn' が残っていることです。トリチウムを 1 個作りながら中性子を消費しないので、次の反応にその中性子を回せます。速い中性子に対してだけ効く、いわば補助エンジンです。

炉が燃料を自給できるかは、トリチウム増殖比(Tritium Breeding Ratio、TBR)という指標で測ります。定義は単純です。

TBR=ブランケットで生成されるトリチウム数プラズマで消費されるトリチウム数\text{TBR} = \frac{\text{ブランケットで生成されるトリチウム数}}{\text{プラズマで消費されるトリチウム数}}

D-T 反応は中性子を 1 個生むので、その中性子で 1 個のトリチウムを作れれば TBR はちょうど 1 です。しかし現実には TBR は 1 をわずかに超えていなければなりません。理由は三つあります。トリチウムは年に約 5.5% ずつ放射性崩壊で減ること、燃料を回収・精製する配管系で必ず一部が失われること、そして将来新しく建てる炉に初期装荷分を渡す必要があることです。これらを補うマージンとして、設計では TBR で 1.05 から 1.15 程度が目標とされます。

ここで壁になるのが中性子の数です。1 個の中性子から 1 個のトリチウムを作るのが精一杯のはずなのに、1 を超えろというのは無理な相談に思えます。実際、中性子は構造材や冷却材にも吸収され、隙間(プラズマを加熱する装置を通す穴など)から漏れてもいきます。何もしなければ TBR は 1 を割り込みます。

そこで中性子の数そのものを増やします。中性子増倍材(neutron multiplier)と呼ばれる物質を使い、1 個の中性子から 2 個を叩き出す(n,2n)反応を起こすのです。

代表的な増倍材はベリリウム(Be)です。

9Be+n24He+2n^{9}\text{Be} + n \rightarrow 2\,{}^{4}\text{He} + 2n

ベリリウムは閾値が約 1.85 MeV と低く、D-T 中性子の 14.1 MeV に対して効率よく中性子を増やせる最良の増倍材です。ただし資源が限られ、毒性があり、照射を受けるとヘリウムがたまって膨らむ(スエリング)問題があります。もう一つの候補が鉛(Pb)で、閾値は 6.7 から 8.4 MeV とやや高いものの、資源が豊富でリチウムとの合金として扱いやすい利点があります。増倍材で中性子を増やしてから、その中性子をリチウムに吸収させることで、はじめて TBR を 1 以上に持ち上げられます。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

ブランケットの設計思想は、トリチウムを作るリチウムを固体で持つか液体で持つかで大きく二つに分かれます。

固体増殖ブランケットでは、リチウムをセラミックスの小さな球(ペブル)にして詰めます。チタン酸リチウム(Li2TiO3\text{Li}_2\text{TiO}_3)やオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4\text{Li}_4\text{SiO}_4)が代表的な増殖材で、中性子増倍材のベリリウム系ペブルと層状に組み合わせます。生成したトリチウムはヘリウムのパージガスを流して連続的に回収します。取り扱いが比較的容易な一方、ペブルは照射で焼き締まったり割れたりするため、長時間の健全性が課題です。

液体増殖ブランケットでは、リチウムを含む液体そのものを増殖材として流します。液体金属リチウム鉛合金(Li17Pb83\text{Li}_{17}\text{Pb}_{83}、通称 LiPb)が代表で、リチウムが増殖材、鉛が増倍材を兼ねるため設計が合理的です。液体を炉外へ循環させてトリチウムを取り出せる利点があります。ただし液体金属は電気を通すため、強い磁場の中を流れると発電機のように起電力が生じ、これがブレーキとなって大きな圧力損失を生みます。これを MHD(磁気流体力学)効果と呼び、液体増殖ブランケット最大の技術課題です。流路の壁を電気的に絶縁する被覆などが研究されています。

受け取った熱をどう運び出すかも設計の骨格です。

水冷却は、軽水炉で蓄積された膨大な技術が使える点が強みです。ただし水は中性子を減速・吸収しやすく、また蒸気の温度が上げにくいため熱を電気に変える効率(熱効率)が頭打ちになります。日本の設計はこの水冷却を基本にしています。

ヘリウム冷却は、化学的に不活性で中性子をほとんど吸収せず、高温まで扱えるため熱効率を高くできます。反面、ヘリウムは熱を受け取る能力(熱伝達率)が低く、高い圧力と大きな流速が必要で、送り込むポンプ動力が大きくなります。

液体金属冷却は、増殖材と冷却材を一つの流体で兼ねられる究極の合理性がありますが、前述の MHD 圧力損失という重い代償を伴います。

これらを組み合わせ、欧州はヘリウム冷却ペブルベッド(HCPB)と水冷却リチウム鉛(WCLL)、日本は水冷却セラミック増殖(WCCB)を主要概念として開発しています。いずれも構造材に低放射化フェライト鋼を用い、TBR で 1.05 から 1.15 を狙います。構造材のふるまいは 核融合炉の構造材料 で詳しく扱います。

TBR を精密に見積もるには、中性子がブランケットの中でどう散乱・吸収されていくかを解く必要があります。実務では中性子輸送方程式(ボルツマン輸送方程式)をモンテカルロ法で数値的に解き、増殖材・増倍材・構造材・冷却材の配置と、加熱装置ポートなどの穴による中性子の漏れを合わせて評価します。三次元の実機形状で局所的な TBR とエネルギー付与分布を求め、材料組成と層構成を最適化することが設計の中心作業になります。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

増殖ブランケットは、核融合の実現に向けて残された最大級の未検証要素です。プラズマ物理や超伝導コイルは装置で実証が進む一方、「炉が燃料を自給しながら熱を取り出す」という核心は、まだ統合的に実証されていません。ここが埋まらない限り核融合発電は成立しないため、集中的に研究が進められています。

現在の最重要ステップが、ITER のテストブランケットモジュール(Test Blanket Module、TBM)です。ITER 本体のブランケットはトリチウムを増殖しない遮蔽専用ですが、専用ポートに各極が持ち込む小型の増殖ブランケット試験体を設置し、実際の核融合中性子環境で TBR や熱除去、トリチウム回収を検証します。日本、欧州、中国、韓国、インドがそれぞれ独自概念の TBM を開発しており、ITER の D-T 運転期に本格的な増殖試験が計画されています。

未解決として活発に研究されているテーマには、次のようなものがあります。TBR を実機形状で確実に 1 以上に保つ中性子工学設計(neutronics)、増殖材ペブルからのトリチウム放出・滞留(tritium inventory and release)、照射に伴うベリリウムのスエリングと構造材の劣化(irradiation damage)、液体増殖での MHD 圧力損失と流動制御(MHD pressure drop)、そして冷却材へ透過するトリチウムの閉じ込め(tritium permeation)です。回収したトリチウムを燃料へ戻す全体像は 燃料サイクル、施設全体でのトリチウムの安全管理は トリチウム管理 で扱います。

論文を読むときは、breeding blanket、DEMO blanket、tritium self-sufficiency、tritium breeding ratio、neutron multiplier といったキーワードが頻出します。ITER の次の段階である原型炉 DEMO では、増殖ブランケットを全面的に採用して初めて発電と燃料自給を実証する計画であり、TBM の成果がその設計を左右します。

問 1. ブランケットが「毛布」と呼ばれる理由と、担う二つの主要な役目の組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 2. トリチウムを生む主な反応と、そこで放出されるエネルギーの組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 3. TBR とは何を表す比で、なぜ 1 をわずかに超える必要があるのですか。
問 4. 中性子増倍材が必要な理由と、代表的な材料の組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 5. 液体増殖ブランケット(LiPb など)最大の技術課題は何ですか。