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核融合反応の種類

核融合には利用できる反応がいくつもあり、どの反応を選ぶかで必要な温度、エネルギーの取り出し方、燃料の調達しやすさが大きく変わります。このページでは代表的な 4 つの反応(D-T、D-D、D-He3、p-B11)を取り上げ、それぞれの反応式とエネルギー、反応の起こりやすさが温度でどう変わるか、そして燃料ごとの長所と課題を、やさしい直感から研究の最前線まで順番に見ていきます。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

核融合は、軽い原子核どうしがくっついてより重い原子核になり、そのときに大きなエネルギーを放出する反応です。ところが原子核はどれもプラスの電気を帯びているので、近づけようとすると磁石の同じ極どうしのように強く反発し合います。この反発の壁を越えるには、原子核を猛烈な速さでぶつけ合う必要があり、そのために超高温が要ります。

反発の壁の高さは、原子核が持つ電気の量で決まります。電気の少ない軽い原子核どうしなら壁が低く、比較的おだやかな条件でくっつけます。だから核融合の燃料には、いちばん軽い水素の仲間(重水素や三重水素)が向いています。逆に、ホウ素のように電気を多く持つ原子核を使う反応は、壁がずっと高く、けた違いの高温が必要になります。

反応の種類は、いわば「使う燃料の組み合わせ」の違いだと考えてください。代表的な組み合わせを、身近なイメージで並べてみます。

D-T 反応は、重水素(D)と三重水素(T)を組み合わせるもので、いちばん火がつきやすい「よく燃える薪」のような存在です。今の核融合研究の主役で、ITER もこの反応を使います。ただし燃えると中性子という粒がたくさん飛び出し、この中性子が装置の壁を傷めたり放射性にしたりします。

D-D 反応は、重水素だけで燃やせるので燃料が手に入りやすい代わりに、火がつきにくい薪です。D-He3 反応や p-B11 反応は「中性子をほとんど出さないクリーンな薪」ですが、非常に燃えにくく、点火にはさらに高い温度が要ります。どれを選ぶかは、燃えやすさと扱いやすさのバランスを取る選択なのです。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

まず反発の壁、クーロン障壁(Coulomb barrier)を見積もります。電荷 Z1eZ_1 eZ2eZ_2 e を持つ 2 つの原子核が距離 rr まで近づいたときの静電エネルギーは次の式で表せます。

U(r)=14πε0Z1Z2e2rU(r) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{Z_1 Z_2 e^2}{r}

ここで ε0\varepsilon_0 は真空の誘電率、ee は電気素量です。原子核が接触する距離(およそ数フェムトメートル)を代入すると、D-T では壁の高さがおよそ数百 keV になります。これを温度に換算すると数十億ケルビンに相当し、古典的にはとても届きません。それでも実際には 1 億〜2 億度で反応が進みます。理由は量子トンネル効果(quantum tunneling)で、粒子が壁を「すり抜ける」確率がわずかに残るためです。

主要な反応の反応式とエネルギーを整理します。放出エネルギー QQ は、反応の前後で失われた質量 Δm\Delta mE=Δmc2E=\Delta m c^2 に従ってエネルギーに変わったものです。

D-T 反応:

D+T4He(3.5 MeV)+n(14.1 MeV)\mathrm{D} + \mathrm{T} \rightarrow {}^4\mathrm{He}\,(3.5\ \mathrm{MeV}) + n\,(14.1\ \mathrm{MeV})

合計 17.6 MeV を放出します。エネルギーの約 80% を中性子 nn が、約 20% をアルファ粒子(4He{}^4\mathrm{He})が運びます。

D-D 反応は、ほぼ等しい確率で 2 つの経路に分かれます。

D+DT(1.01 MeV)+p(3.02 MeV)\mathrm{D} + \mathrm{D} \rightarrow \mathrm{T}\,(1.01\ \mathrm{MeV}) + p\,(3.02\ \mathrm{MeV}) D+D3He(0.82 MeV)+n(2.45 MeV)\mathrm{D} + \mathrm{D} \rightarrow {}^3\mathrm{He}\,(0.82\ \mathrm{MeV}) + n\,(2.45\ \mathrm{MeV})

D-He3 反応:

D+3He4He(3.6 MeV)+p(14.7 MeV)\mathrm{D} + {}^3\mathrm{He} \rightarrow {}^4\mathrm{He}\,(3.6\ \mathrm{MeV}) + p\,(14.7\ \mathrm{MeV})

生成物はどちらも電荷を持つ荷電粒子で、中性子を直接出しません。

p-B11 反応:

p+11B34He+8.7 MeVp + {}^{11}\mathrm{B} \rightarrow 3\,{}^4\mathrm{He} + 8.7\ \mathrm{MeV}

3 個のアルファ粒子に分かれ、やはり中性子を出しません。

反応の起こりやすさは、反応断面積(cross section) σ\sigma で表します。σ\sigma は「粒子どうしが出会ったときにどれくらいの割合で反応するか」を面積の次元で表した量で、粒子の相対速度(つまり温度)に強く依存します。実際のプラズマでは、粒子が速度分布(マクスウェル分布)を持つため、断面積 σ\sigma に相対速度 vv を掛けて速度分布で平均した反応率係数(reaction rate coefficient) σv\langle \sigma v \rangle を使います。単位体積あたりの反応率は、燃料の数密度 n1n_1n2n_2 を用いて次のように書けます。

R=n1n2σvR = n_1 n_2 \langle \sigma v \rangle

D-T の σv\langle \sigma v \rangle は、1 億〜2 億度(10〜20 keV)の温度域で他の反応より 1〜2 けた大きくなります。D-D は同じ温度で D-T のおよそ 1/100、必要温度もおよそ 5 倍です。この「σv\langle \sigma v \rangle が大きい温度域の低さ」こそ、D-T が最初の燃料に選ばれる物理的な理由です。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

トンネル効果を通した反応断面積は、次の形に分解できます。

σ(E)=S(E)Eexp ⁣(EGE)\sigma(E) = \frac{S(E)}{E}\exp\!\left(-\sqrt{\frac{E_G}{E}}\right)

ここで EE は重心系のエネルギー、S(E)S(E) は天体核物理量(astrophysical S-factor)と呼ばれ、核反応そのものの性質をゆっくり変化する形で含みます。指数部分がトンネル確率を表し、EGE_G はガモフエネルギー(Gamow energy)で、次のように定義されます。

EG=(παZ1Z2)22mrc2E_G = (\pi \alpha Z_1 Z_2)^2 \, 2 m_r c^2

α\alpha は微細構造定数、mrm_r は換算質量です。EGE_GZ1Z2Z_1 Z_2 の 2 乗に比例することから、電荷の大きい原子核ほど障壁を越えにくいことが定量的に理解できます。

マクスウェル分布で σv\langle \sigma v \rangle を計算するとき、被積分関数は 2 つの相反する因子の積になります。低エネルギー側では分布関数 exp(E/kBT)\exp(-E/k_B T) が大きい一方でトンネル確率が小さく、高エネルギー側ではトンネル確率が大きい一方で分布に乗る粒子数が急減します。この 2 つの積が特定のエネルギーで鋭いピークを作ります。これがガモフピーク(Gamow peak)です。ピークの位置 E0E_0 は熱エネルギー kBTk_B T よりかなり高く、次で近似されます。

E0=(EGkBT2)2/3E_0 = \left(\frac{\sqrt{E_G}\,k_B T}{2}\right)^{2/3}

つまり、実際に反応を担うのは分布のうち平均より速い一部の粒子であり、この裾の粒子群が核融合出力を支配します。ガモフピークの理解は、σv\langle \sigma v \rangle の温度依存性がなぜあれほど急峻なのか、そしてなぜ温度をわずかに上げるだけで出力が大きく伸びるのかを説明します。

中性子の扱いも、理論と工学をつなぐ重要な論点です。D-T が出す 14.1 MeV の中性子は電気的に中性で磁場に閉じ込められず、そのまま炉壁へ飛び込みます。この中性子は 2 つの意味を持ちます。1 つはエネルギー回収で、中性子のエネルギーを周囲のブランケット(blanket)で熱に変えて発電に使います。もう 1 つは燃料増殖で、後述するトリチウム生成を担います。一方で高速中性子は材料原子をはじき出して格子欠陥を作り(中性子照射損傷)、構造材を放射化します。中性子壁負荷(neutron wall loading)は炉設計の基本指標で、材料寿命と保守周期を左右します。

先進燃料(D-He3、p-B11)はこの中性子問題を原理的に軽くします。ただし D-He3 では副反応の D-D から 2.45 MeV 中性子が生じるため、完全な非中性子にはなりません。p-B11 は主反応が非中性子ですが、電荷の大きさ(Z=5Z=5)ゆえにガモフエネルギーが極端に大きく、点火に約 30 億度級の高温を要します。さらに高温・高 ZZ プラズマでは制動放射(bremsstrahlung)による電磁波損失が Z2Z^2 に比例して増え、核融合出力が損失に追いつきにくくなります。この出力対損失のバランスが、p-B11 を単純なローソン条件で扱えない難しさの核心です。

研究の最前線(博士課程レベル)

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先進燃料(advanced fuels)の研究は、中性子を出さない発電を目指す動機から近年活発になっています。p-B11(proton-boron 11)をめぐっては、レーザー駆動での高い反応収量の報告や、非熱的(non-thermal)な速度分布を積極的に使って熱平衡プラズマの限界を回避しようという発想が議論されています。熱平衡のマクスウェル分布では制動放射損失が支配的になりやすいため、ビーム入射などで特定の速度成分を持たせる非熱的アプローチが検討されています。

反応率係数 σv\langle \sigma v \rangle 自体の精密化も続いています。断面積データ(cross section data)は主に評価済み核データライブラリにまとめられ、特に p-B11 では低エネルギー共鳴(resonance)の寄与や、電子スクリーニング(electron screening)が実効的な障壁をどう下げるかが定量評価の焦点です。

燃料サイクルとの結合も研究テーマです。D-T ではトリチウム自己充足(tritium self-sufficiency)が要件で、ブランケット内のリチウムと中性子の反応

6Li+n4He+T+4.8 MeV{}^6\mathrm{Li} + n \rightarrow {}^4\mathrm{He} + \mathrm{T} + 4.8\ \mathrm{MeV}

によりトリチウムを増殖します。消費量以上を生む必要があり、トリチウム増殖比(tritium breeding ratio, TBR)を 1 以上にできるかが炉成立の条件です。中性子増倍材や増殖材の配置、TBR の実測的検証が課題です。

He3 の資源論も長期テーマです。地球上の He3 は希少ですが、月レゴリスに太陽風由来の He3 が蓄積しているとされ、将来資源として言及されます。もっとも採取・輸送のコストは未確立で、現時点では研究段階の構想です。論文で頻出するキーワードとして、S-factor、Gamow peak、reactivity、aneutronic fusion(非中性子核融合)、bremsstrahlung loss、ignition condition などを押さえておくと読み進めやすくなります。

問 1. 軽い原子核ほど核融合に向いているのはなぜですか。
問 2. D-T 反応の全放出エネルギーは何 MeV で、中性子とアルファ粒子はそれぞれどれくらいのエネルギーを持ちますか。
問 3. 反応率係数(シグマ v の平均)は反応断面積シグマと何が違いますか。
問 4. ガモフピークとは何を指しますか。
問 5. p-B11 反応が非中性子でありながら実現が難しいのはなぜですか。