コンテンツにスキップ

ローソン条件

ローソン条件は、核融合炉が「入れたエネルギーより多くのエネルギーを取り出せる」ための最低ラインを定める条件です。1957 年にイギリスの物理学者 J.D. Lawson が導いたもので、半世紀以上にわたって核融合開発の到達度を測るものさしとして使われてきました。このページでは、なぜエネルギー収支から密度・温度・閉じ込め時間という 3 つの量が現れるのか、そして点火や Q 値とどうつながるのかを、やさしいところから順に積み上げて説明します。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

核融合を「たき火」にたとえてみます。たき火を燃やし続けるには、薪をくべる速さ(エネルギーが生まれる速さ)が、熱が逃げていく速さ(エネルギーが失われる速さ)を上回っていなければなりません。逃げる方が速ければ火は消えてしまいます。核融合炉でも同じで、プラズマ(原子核と電子がばらばらに飛び交う超高温のガス)の中で反応が生み出す熱が、外へ逃げる熱に負けないようにする必要があります。

では、生まれる熱を増やし、逃げる熱を減らすには何が効くのでしょうか。効くのは次の 3 つです。

一つ目は密度です。原子核どうしがぶつかって初めて融合が起きるので、粒子が混み合っているほど衝突の回数が増え、反応がたくさん起きます。人でいっぱいの部屋ほど、人どうしがぶつかりやすいのと同じです。

二つ目は温度です。原子核はどれもプラスの電気を帯びていて、近づくと電気の力で反発し合います。この反発をはねのけて十分に近づくには、猛スピードでぶつかる必要があります。温度が高いとは、粒子が速く飛び回っているということなので、温度が高いほど反発の壁を越えて融合できます。核融合に必要な温度は約 1 億度という途方もない高さです。

三つ目は閉じ込め時間です。せっかく熱くしても、熱がすぐ逃げてしまっては意味がありません。プラズマがどれくらい長く熱を保っていられるか、その持ちのよさが閉じ込め時間です。魔法瓶がお湯を長く温かく保つように、熱を逃がさず溜め込む力が大切です。

ローソン条件とは、この「密度」「温度」「閉じ込め時間」の 3 つがどれくらいそろえば火が自分で燃え続けるかを、数字で表したものだと考えてください。どれか一つだけ大きくても足りず、3 つのかけ算が一定以上になって初めて条件を満たします。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

エネルギー収支をきちんと式で書いてみます。プラズマが単位体積あたりに持っている熱エネルギーは、粒子 1 個あたり平均 32kBT\frac{3}{2}k_B T のエネルギーを持ち、イオンと電子が同数あることから、密度 nn(電子密度)を使って

W=3nkBTW = 3 n k_B T

と書けます。ここで kBk_B はボルツマン定数、TT は温度です。イオンと電子それぞれが 32nkBT\frac{3}{2}n k_B T を持つので、合わせて 3nkBT3 n k_B T になります。

このエネルギーが失われていく速さを表すのが、エネルギー閉じ込め時間(energy confinement time) τE\tau_E です。定義上、単位体積あたりの損失パワーは

Ploss=WτE=3nkBTτEP_{\text{loss}} = \frac{W}{\tau_E} = \frac{3 n k_B T}{\tau_E}

となります。τE\tau_E が長いほど、同じ蓄積エネルギーでも逃げる速さがゆっくりになる、つまり保温がよいことを意味します。

一方、核融合反応で生まれるパワーを考えます。重水素(D)と三重水素(T)を燃料とする D-T 反応では、1 回の反応で 17.6 MeV のエネルギーが放出されます。そのうち 3.5 MeV をアルファ粒子(ヘリウム原子核)が、14.1 MeV を中性子が持ち去ります。電気を帯びたアルファ粒子はプラズマの中に留まってプラズマを内側から温めますが、電気を持たない中性子はプラズマをすり抜けて外へ出ていきます。

D と T を同数ずつ混ぜた場合、それぞれの密度は n/2n/2 です。単位体積あたりの反応率は n2n2σv=n24σv\frac{n}{2}\cdot\frac{n}{2}\langle\sigma v\rangle = \frac{n^2}{4}\langle\sigma v\rangle で表されます。ここで σv\langle\sigma v\rangle は反応断面積と相対速度の積を温度分布で平均した反応率係数(reactivity)で、温度で決まる量です。反応 1 回あたりの全エネルギーを Ef=17.6E_f = 17.6 MeV とすると、核融合パワー密度は

Pfus=n24σvEfP_{\text{fus}} = \frac{n^2}{4}\langle\sigma v\rangle E_f

となります。密度の 2 乗で効くのがポイントで、密度を 2 倍にすると反応は 4 倍になります。

点火(ignition)は、外部加熱なしでアルファ粒子加熱だけでプラズマの熱を保てる状態です。アルファ粒子の分のパワー Pα=n24σvEαP_\alpha = \frac{n^2}{4}\langle\sigma v\rangle E_\alpha(ここで Eα=3.5E_\alpha = 3.5 MeV)が損失パワーとちょうど釣り合う条件を書くと

n24σvEα=3nkBTτE\frac{n^2}{4}\langle\sigma v\rangle E_\alpha = \frac{3 n k_B T}{\tau_E}

これを nτEn\tau_E について解くと

nτE=12kBTσvEαn\tau_E = \frac{12 k_B T}{\langle\sigma v\rangle E_\alpha}

が得られます。これがローソン条件のもっとも基本的な形です。左辺の密度と閉じ込め時間の積が、右辺の温度で決まる値を上回れば火が自分で燃え続けます。D-T 反応で右辺を最小にする温度は 10〜20 keV(約 1〜2 億度)のあたりで、そこでの条件はおよそ

nτE1.5×1020 m3sn\tau_E \gtrsim 1.5 \times 10^{20}\ \text{m}^{-3}\cdot\text{s}

となります。式を出したので日本語で読み下すと、「1 立方メートルあたりの粒子数と、熱が保たれる秒数のかけ算が、だいたい 1.5×10201.5\times10^{20} を超えれば点火に届く」という意味です。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

先ほどの導出では損失を W/τEW/\tau_E とまとめましたが、より正確には損失には複数の経路があります。主なものは、粒子や熱が装置の外側へ運ばれていく輸送損失(transport loss)と、電子が原子核の近くで曲げられるときに電磁波を出して冷える制動放射(bremsstrahlung)です。τE\tau_E はこれら輸送損失をまとめて表現した経験的な量で、その物理的な中身は輸送理論の主題になります。詳しくは 輸送現象 のページで扱います。

三重積(triple product) nTτEnT\tau_E を性能指標に使う理由も、この導出から見えてきます。上のローソン条件を nTτEnT\tau_E の形に書き直すと

nTτE12(kBT)2σvEαnT\tau_E \gtrsim \frac{12 (k_B T)^2}{\langle\sigma v\rangle E_\alpha}

となります。右辺は温度だけの関数で、D-T 反応では 10102020 keV あたりでほぼ一定の谷になります。この温度領域では σv\langle\sigma v\rangleT2T^2 にほぼ比例して増えるため、右辺の温度依存が打ち消し合い、nTτEnT\tau_E の必要値がほぼ温度によらない定数になるのです。だからこそ三重積は、温度の細かな違いに左右されにくい便利なものさしになります。点火に必要な三重積はおよそ

nTτE3×1021 keVm3snT\tau_E \gtrsim 3 \times 10^{21}\ \text{keV}\cdot\text{m}^{-3}\cdot\text{s}

と見積もられます。密度・温度・閉じ込め時間という独立に測れる 3 つの量のかけ算に集約できることが、この指標の強みです。

点火に届かなくても、外部加熱を補いながら正味の利得を得ることはできます。ここで核融合エネルギー増倍率(energy gain factor) QQ が登場します。QQ は核融合出力パワーを外部加熱パワーで割った比で定義されます。

Q=PfusPextQ = \frac{P_{\text{fus}}}{P_{\text{ext}}}

Q=1Q = 1 は科学的ブレークイーブン(投入した加熱パワーと核融合出力が等しい状態)です。Q=10Q = 10 は ITER の目標値で、外部加熱の 10 倍の核融合出力を得ることを意味します。QQ \to \infty が点火で、外部加熱ゼロで反応が持続する状態にあたります。プラズマの自己加熱の割合はアルファ粒子加熱の寄与で決まり、QQ との関係では自己加熱の割合が QQ+5\frac{Q}{Q+5} で表されます。これは D-T 反応で全エネルギー 17.6 MeV のうちアルファ粒子が 3.5 MeV、つまり 1/51/5 を担うことから来ています。Q=5Q = 5 で自己加熱が半分、QQ \to \infty で 100 パーセントの自己加熱、すなわち点火になります。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

閉じ込め方式によって、ローソン条件へ到達する戦略が大きく異なります。方式ごとの詳細は 閉じ込め方式 のページにまとまっています。

磁場閉じ込め方式(magnetic confinement)は、トカマクやステラレータのように強い磁場でプラズマを長時間閉じ込めます。密度は比較的低く 1020 m310^{20}\ \text{m}^{-3} 程度ですが、閉じ込め時間を秒のオーダーまで延ばすことで三重積を稼ぎます。低密度・長時間という組み合わせです。トカマクでは高閉じ込めモード(H-mode)への遷移や、装置サイズの拡大による閉じ込め改善が研究の中心です。プラズマの乱流輸送をどう抑えるかが τE\tau_E を決める鍵で、輸送障壁の形成機構は今も活発な研究対象です。

慣性閉じ込め方式(inertial confinement)は、燃料ペレットを強力なレーザーで一気に圧縮・加熱し、粒子自身の慣性で飛び散る前のごく短い時間に反応させます。密度は 1031 m310^{31}\ \text{m}^{-3} という桁違いの高さに達しますが、閉じ込め時間はナノ秒以下です。超高密度・超短時間という、磁場方式とは正反対の組み合わせでローソン条件を満たそうとします。慣性方式では密度と閉じ込め時間の積の代わりに、圧縮した燃料の面密度 ρR\rho R(density-radius product)が指標として使われ、点火には ρR0.3 g/cm2\rho R \gtrsim 0.3\ \text{g/cm}^2 程度が目安とされています。

装置ごとの到達実績を比べるときは、同じ三重積の値でも、それをどの密度・温度・時間の組み合わせで達成したかに注目すると方式の性格が見えてきます。磁場方式では 1990 年代に JT-60U が三重積で 1.5×1021 keVm3s1.5\times10^{21}\ \text{keV}\cdot\text{m}^{-3}\cdot\text{s} 級に達し、JET は 1997 年に Q=0.67Q = 0.67 を記録しました。慣性方式では、アメリカの国立点火施設(NIF)が 2022 年 12 月に、投入したレーザーエネルギーを上回る核融合エネルギーを取り出す科学的な達成を報告しました。ITER は Q10Q \ge 10(核融合出力 500 MW)を目標に建設が進んでいます。高温超伝導マグネットで磁場を強めて装置を小型化する SPARC のような新しいアプローチも並行して進んでおり、より小さな装置で高い三重積を狙う流れが生まれています。論文を読むときは、triple product、Lawson criterion、ignition、energy gain(Q)、alpha heating、density-radius product といった語が頻出します。

反応の種類そのものがローソン条件を左右する点も押さえておきたいところです。ここまでは D-T 反応を前提にしましたが、燃料の選び方で必要な温度も三重積も変わります。各反応の性質は 核融合反応 のページで詳しく扱っています。

問 1. ローソン条件で効いてくる 3 つの量の組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 2. 核融合パワー密度が密度 n の 2 乗に比例するのはなぜですか。
問 3. 核融合エネルギー増倍率 Q について正しい説明はどれですか。
問 4. 磁場閉じ込めと慣性閉じ込めが同じローソン条件を満たすやり方の違いとして正しいものはどれですか。
問 5. 三重積 nTτE が、密度と閉じ込め時間の積 nτE よりも装置の性能比較に便利なのはなぜですか。
  • 核融合反応: 燃料の選び方でローソン条件がどう変わるかを理解する土台になります。
  • 輸送現象: 閉じ込め時間 τE\tau_E を決める損失の物理を詳しく扱います。
  • 閉じ込め方式: 磁場方式と慣性方式それぞれの装置と到達戦略を比べられます。