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原型炉(DEMO)

原型炉(DEMO: DEMOnstration Power Plant)は、実験炉 ITER の次に建設が計画されている核融合装置です。ITER が「核融合でエネルギーが取り出せる」ことを科学的に示すのに対し、DEMO は「その核融合で実際に電気を作り、燃料を自分でまかない、長時間動かし続けられる」ことを実証します。このページでは、DEMO がなぜ必要で、何が難しいのかを、直感から研究の最前線まで順を追って説明します。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

新しい乗り物を世に出すことを考えてみましょう。まず研究所で「エンジンが動くか」を試す試作機を作ります。次に「街を走れて、給油もでき、毎日使える」ことを示す実用試作車を作ります。そして最後に工場で量産される市販車が登場します。核融合でいうと、エンジンが動くかを試す試作機が実験炉 ITER、実用試作車が原型炉 DEMO、市販車が商用炉です。DEMO は実験と商用のちょうど間を埋める段階だと考えてください。

ITER と DEMO の違いは大きく 3 つあります。

1 つ目は発電です。ITER は核融合でエネルギーが出ることを確かめますが、そのエネルギーを電気に変えて送り出すことはしません。DEMO は核融合で出た熱で水を沸かし、蒸気でタービンを回して発電し、実際に電力系統へ電気を送ります。火力発電所や原子力発電所と同じように、コンセントの向こうに電気を届けるところまでやるのが DEMO です。

2 つ目は燃料を自分でまかなうことです。核融合の燃料は重水素(deuterium)と三重水素(tritium)です。重水素は海水からいくらでも取れますが、三重水素は自然界にほとんど存在せず、しかも 12 年ほどで半分に減ってしまう放射性物質です。そこで DEMO では、核融合で飛び出す中性子をリチウムに当てて三重水素を生み出し、使った分を炉の中で作り直します。この「燃料を自給する」仕組みが DEMO の心臓部です。

3 つ目は長く動かし続けることです。発電所は止まってばかりでは役に立ちません。DEMO では、点火と停止を繰り返す実験運転ではなく、長時間安定して運転を続ける定常運転と高い稼働率を目指します。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

DEMO の目標を数値で見ていきましょう。核融合の性能を表す代表的な指標に QQ 値があります。これは投入した加熱パワーに対して、核融合で得られたパワーの比です。

Q=PfusPheatQ = \frac{P_\text{fus}}{P_\text{heat}}

ここで PfusP_\text{fus} は核融合出力、PheatP_\text{heat} はプラズマを加熱するために外から入れたパワーです。ITER の目標は Q10Q \geq 10、つまり入れたパワーの 10 倍を核融合で得ることです。DEMO ではさらに大きな QQ が求められ、外部加熱をほとんど必要としない自己加熱に近い運転を目指します。

発電所として成立するには、電気の収支も見なければなりません。核融合出力から発電して得られる電気を PgrossP_\text{gross}、炉全体を動かすために消費する電気(加熱装置、コイル、冷却系など)を PrecircP_\text{recirc} とすると、外部へ送り出せる正味電気出力は次のようになります。

Pnet=PgrossPrecircP_\text{net} = P_\text{gross} - P_\text{recirc}

PnetP_\text{net} が確実にプラスになり、しかも意味のある大きさ(数百 MW 級)になることが DEMO の発電実証の条件です。

燃料の自給を表すのが三重水素増殖比(TBR: Tritium Breeding Ratio)です。

TBR=ブランケットで生成される三重水素の量核融合で消費される三重水素の量\text{TBR} = \frac{\text{ブランケットで生成される三重水素の量}}{\text{核融合で消費される三重水素の量}}

TBR が 1 なら消費した分をちょうど作り出せます。しかし現実には、配管に残ったり崩壊で失われたりする分があり、さらに新しい炉を起動するための在庫も要ります。そのため DEMO では TBR>1.05\text{TBR} > 1.05 程度、つまり少し多めに作れることが目標とされています。三重水素は中性子とリチウムの核反応で生まれます。

6Li+n4He+T+4.8 MeV{}^{6}\text{Li} + n \rightarrow {}^{4}\text{He} + T + 4.8\ \text{MeV}

この反応を炉心の周りを覆うブランケット(blanket)と呼ばれる装置の中で起こします。

稼働率(availability)は、1 年のうち実際に運転できている時間の割合です。実験炉では数 % でも研究目的は果たせますが、発電を実証する DEMO では 30〜50 % 以上、将来の商用炉では 70 % 以上が必要になります。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

DEMO 設計の難しさは、個々の要素技術を高めるだけでは足りず、相互に矛盾する要求を同時に満たさなければならない点にあります。ここが実験炉と原型炉の本質的な違いです。

まず定常運転の物理です。トカマク(tokamak)型ではプラズマ電流を流して閉じ込め磁場を作りますが、変圧器の原理を使う誘導電流は本質的にパルス運転しかできません。長時間の定常運転には、プラズマ自身が生み出すブートストラップ電流(bootstrap current)を高い割合で使い、不足分を中性粒子ビーム入射(NBI)や電子サイクロトロン波電流駆動(ECCD)、低域混成波電流駆動(LHCD)といった外部電流駆動で補います。ブートストラップ電流比を 0.7〜0.8 まで高める先進運転シナリオが、特に日本の設計で重視されています。

次に排熱の問題です。プラズマから流れ出る熱と粒子は、ダイバータ(divertor)と呼ばれる部分に集中します。ここに到達する熱流束は素材の耐えられる限界(おおむね 10〜20 MW/m² 程度)を超えかねません。そこで、ダイバータ手前で中性ガスにエネルギーを渡して熱を分散させるデタッチメント(detachment、非接触プラズマ)運転や、磁場配位を工夫した先進ダイバータが研究されています。

さらに炉工学として、ブランケットには増殖(三重水素を作る)、遮蔽(中性子を遮る)、除熱(発電用に熱を取り出す)という 3 つの役割を 1 つの機器で同時に担わせる必要があります。設計案には、ヘリウムで冷却しリチウムのペブル(小球)を敷き詰めるヘリウム冷却ペブルベッド(HCPB)や、液体のリチウム鉛合金を水で冷やす水冷却リチウム鉛(WCLL)などがあり、まだ 1 つに絞り込まれていません。ブランケットの詳しい仕組みは増殖ブランケットのページで扱います。

これらの要求はしばしば互いに衝突します。TBR を上げるにはブランケットを厚くリチウムで満たしたいのですが、構造材や冷却材が中性子を吸うと TBR は下がります。稼働率を上げたいのに、炉内は運転後に高線量となり人が入れず、保守はすべて遠隔で行わねばならないため時間がかかります。こうした矛盾を、限られた設計空間の中で折り合わせるのが原型炉設計の核心です。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

現在の DEMO 研究は「概念設計」の段階にあり、各極がそれぞれの考え方で設計を練っています。

日本の JA DEMO は、量子科学技術研究開発機構(QST)と核融合科学研究所(NIFS)が中心となり、大半径 8.5 m 級の装置として概念設計が進められています。高いブートストラップ電流比による定常運転を重視し、日欧共同の幅広いアプローチ(BA: Broader Approach)活動で整備された JT-60SA や、材料照射施設 IFMIF-DONES と連携しながら設計データを蓄積しているのが特徴です。ITER の運転成果を反映してから建設判断を行う、堅実な段階的アプローチが取られています。

欧州の EU-DEMO は EUROfusion が主導し、大半径 9 m 級、核融合出力 2000 MW 級のパルス運転を基本線とする一方、定常運転オプションも並行して検討しています。前述の HCPB と WCLL の 2 つのブランケット概念を競わせて評価を進めているのが特徴的です。

このほか、中国の CFETR は工学試験と発電実証を段階的に行う 2 段階計画、韓国の K-DEMO は高性能 Nb3Sn 超伝導コイルによる高磁場化を軸とする設計など、各極が異なる技術的重点を置いています。近年は民間核融合ベンチャーが独自の実証炉構想を打ち出しており、公的な DEMO 計画と併走する形になっています。

DEMO を実現するには、いくつかの技術ギャップを埋める必要があると議論されています。1 つ目は増殖ブランケットの実証です。TBR > 1 を実機規模で実際に達成できるかは、まだ実証されていません。ITER に試験ブランケットモジュール(TBM: Test Blanket Module)を取り付けて核環境下での挙動を調べる計画が進んでいます。2 つ目は材料照射データの不足です。構造材は運転中に 50〜100 dpa(displacement per atom、原子はじき出し数)に達する中性子照射を受けますが、この条件を模擬できる照射源が現状では限られています。低放射化フェライト鋼(F82H、EUROFER97)や SiC/SiC 複合材料の照射データを取得するため、IFMIF-DONES などの中性子照射施設の整備が進められています。材料側の課題は構造材料のページで詳しく扱います。3 つ目は定常運転の実証、4 つ目は遠隔保守方式の確立で、炉内機器をどう分割し、どのくらいの期間で交換できるかが稼働率を直接左右します。

研究アプローチとして近年重要性を増しているのが、設計統合とシステムコード(systems code)です。プラズマ物理、磁場コイル、ブランケット、ダイバータ、発電系、コストといった多数の要素を連立させ、矛盾する制約の中で成立する設計点を探索する統合解析手法です。欧州の PROCESS や日本の TPC といったシステムコードを使い、設計空間を系統的に走査して最適な炉パラメータを探る研究が世界的に活発化しています。論文を読むときは、systems code、design point、tritium self-sufficiency、divertor heat load、pulsed versus steady-state operation といったキーワードが頻出します。

問 1. 実験炉 ITER と原型炉 DEMO の最も大きな違いとして正しいものはどれですか。
問 2. 三重水素増殖比(TBR)が 1 ちょうどでは不十分で、TBR が 1.05 程度必要とされるのはなぜですか。
問 3. 正味電気出力 P_net = P_gross - P_recirc における P_recirc とは何を指しますか。
問 4. 増殖ブランケットが 1 つの機器で同時に担う 3 つの役割はどれですか。
問 5. DEMO 設計でシステムコードが重視されるのはなぜですか。