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プラズマ対向材料

核融合炉の中で、燃えているプラズマに最も近い場所に立っている材料があります。プラズマ対向材料(plasma-facing material、PFM)と呼ばれる、この最前線の壁です。このページでは、なぜこの材料選びがこれほど難しいのか、炭素からベリリウム、そしてタングステンへと主役が移り変わってきた歴史、材料が壊れていく物理、そして液体金属という発想の転換までを、順を追って見ていきます。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

太陽の中心より高温、1 億度を超えるプラズマのすぐそばに、固体の壁を置くことを想像してみてください。まともに触れれば一瞬で溶けてしまいそうです。実際には磁場がプラズマを宙に浮かせて壁から引き離しているので、壁が 1 億度になるわけではありません。それでも、プラズマから漏れ出す熱や粒子が壁に降り注ぎ、壁の表面は非常に厳しい環境にさらされます。

プラズマ対向材料に求められることを、身近なたとえで整理してみましょう。

第一に、熱に強いこと。フライパンを強火にかけ続けても溶けないのと同じで、高い熱を浴び続けても形を保てる材料でなければいけません。ダイバータ(divertor)と呼ばれる、熱と粒子を集中的に受け止める部品では、その熱の集中がとくに激しくなります。

第二に、削れにくいこと。プラズマの粒子が高速で壁にぶつかると、砂粒が石を少しずつ削るように、壁の原子がはじき飛ばされます。これをスパッタリング(sputtering)と言います。壁が削れれば寿命が縮むうえ、削れた原子がプラズマに混ざって温度を下げてしまいます。

第三に、プラズマを汚しにくいこと。壁から出た原子がプラズマに混ざると、その原子が光を出してエネルギーを奪います。とくに重い原子ほど大量の光を出すので、少し混ざっただけでプラズマが冷えてしまいます。

第四に、燃料をため込みにくいこと。核融合の燃料には三重水素(トリチウム)という放射性の水素が使われます。壁がこれを吸い込んで離さないと、貴重な燃料が失われるうえ、放射性物質が壁にたまって安全上の問題になります。

やっかいなのは、これらの条件がしばしば互いに矛盾することです。ある性質を立てれば別の性質が犠牲になる。だからこそ材料選びは核融合の大きな課題であり続けてきました。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

ここからは、いくつかの性質を数式と数値で見ていきます。

ダイバータの表面が受ける熱流束(heat flux) qq は、定常運転でおよそ 1010 から 20 MW/m220 \ \mathrm{MW/m^2} に達します。これは太陽の表面が出す熱流束の数百倍に相当する激しさです。さらに、周期的に起こる ELM(edge-localized mode)と呼ばれるプラズマ端の吹き出しや、プラズマが突然崩壊するディスラプション(disruption)の際には、瞬間的に 1 GW/m21 \ \mathrm{GW/m^2} を超えることもあります。

表面温度の上昇は、材料の熱伝導率 κ\kappa に大きく左右されます。定常的な熱流束 qq に対し、厚さ LL の材料の表面と裏面の温度差 ΔT\Delta T は、おおまかに

ΔTqLκ\Delta T \approx \frac{q \, L}{\kappa}

で見積もれます。熱伝導率 κ\kappa が大きいほど、同じ熱流束でも表面温度の上昇を抑えられます。タングステンの熱伝導率は室温で約 170 W/(mK)170 \ \mathrm{W/(m \cdot K)} と金属の中でも高く、これが高熱負荷部に選ばれる理由の一つです。

スパッタリングの起こりやすさは、スパッタリング収率(sputtering yield) YY で表します。これは「入射する粒子 1 個あたり、平均して何個の原子がはじき出されるか」を示す量です。YY0.010.01 なら、100 個ぶつかって 1 個が削れる、という意味になります。

物理スパッタリング(physical sputtering)は、入射粒子が原子を力学的にはじき飛ばす現象です。ビリヤードで手玉が的球を弾くのに似ています。的球を弾くには最低限の勢いが必要なのと同じで、原子をはじき出すにも入射エネルギーがある値を超えなければなりません。この最低値を閾値エネルギー(threshold energy)と呼びます。重い原子ほど、そして表面に強く結合した原子ほど、はじき出すのに大きなエネルギーが要るので閾値が高くなります。

タングステンの場合、重水素の入射に対する閾値は約 200200 から 300 eV300 \ \mathrm{eV} と高く、通常のダイバータプラズマの粒子エネルギー(55 から 30 eV30 \ \mathrm{eV} 程度)では物理スパッタリングがほとんど起きません。これは大きな長所です。一方、軽い炭素は閾値が低く、低いエネルギーでも削れてしまいます。

もう一つ、化学スパッタリング(chemical sputtering)という別の削れ方があります。これは入射粒子と壁の原子が化学反応して、揮発しやすい分子になって飛び去る現象です。炭素と水素が反応してメタンなどの炭化水素ガスになるのが代表例で、エネルギーが低くても起こるため、炭素材料の弱点となりました。タングステンは水素と安定な化合物を作らないので、化学スパッタリングを実質的に受けません。

壁から出た不純物原子がプラズマ中心に混ざると、放射でエネルギーを奪います。この放射損失は原子番号 ZZ が大きいほど急激に増えます。おおまかには、許容できる不純物濃度が ZZ とともに大きく下がっていくと考えてください。

炭素(Z=6Z = 6)やベリリウム(Z=4Z = 4)のような低 ZZ 材料は、多少混ざってもプラズマをあまり冷やしません。逆にタングステン(Z=74Z = 74)のような高 ZZ 材料は、ごくわずか(濃度で 10410^{-4} 程度)混ざるだけでプラズマを冷やしてしまいます。ここに、削れにくさ(高 ZZ が有利)と汚しにくさ(低 ZZ が有利)の根本的な矛盾があります。

この矛盾を、歴史の主役となった 3 つの材料で整理します。

炭素系材料(グラファイトや炭素繊維複合材 CFC)は、融点を持たず約 3900 K3900 \ \mathrm{K} 以上で昇華するため、溶けて飛び散る心配がなく、低 ZZ でプラズマを汚しにくい優等生でした。1990 年代までダイバータの定番でしたが、化学スパッタリングとトリチウム蓄積という致命的な弱点を抱えていました。

ベリリウム(Z=4Z = 4、融点約 1560 K1560 \ \mathrm{K})は最も軽い金属で、プラズマ中に混ざっても放射損失が小さく、酸素と結びついて残留酸素を減らす酸素ゲッター効果も持ちます。ただし融点が低く、毒性があります。

タングステン(Z=74Z = 74、融点 3695 K3695 \ \mathrm{K})は全金属中で最高の融点を持ち、スパッタリング閾値が高く、水素をほとんどため込みません。弱点は、高 ZZ ゆえプラズマを汚しやすいことと、後で述べる脆化(もろくなること)です。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

主役が炭素からタングステンへ移った歴史を軸に、材料が壊れていく物理を掘り下げます。

炭素からタングステンへ: なぜ主役が変わったか

Section titled “炭素からタングステンへ: なぜ主役が変わったか”

炭素の敗因はトリチウムの共堆積(co-deposition)でした。化学スパッタリングで飛び出した炭素は、プラズマの低温部で水素同位体を巻き込みながら再び膜となって堆積します。この共堆積層は、水素とほぼ 1 対 1 の比率でトリチウムを取り込むため、運転を重ねるほど炉内にトリチウムがたまり続けます。ITER のように大量のトリチウムを扱う装置では、炉内トリチウム保有量に安全上の上限(ITER では約 700 g700 \ \mathrm{g})が定められており、炭素では数百ショットでこの上限に達すると予測されました。これが ITER が炭素の使用を断念した決定的な理由です。

この予測は実機で裏づけられました。欧州の JET は 2010 年から 2011 年にかけて、それまでの炭素壁をベリリウム第一壁とタングステンダイバータに全面的に張り替える改修(ITER-like wall)を行いました。その結果、炉内へのトリチウム蓄積率は炭素壁時代のおよそ 20 分の 1 まで下がりました。この実証が、ITER のダイバータをタングステンとする判断を後押ししました。

なお ITER は当初、第一壁にベリリウム、ダイバータにタングステンを使う設計でしたが、その後の設計見直しの中でタングステンの採用範囲を広げる方向で検討が進められてきました。ここでは確立した事実として、ダイバータにタングステンが選ばれた経緯までを述べておきます。

タングステンは融点が高いとはいえ、ディスラプションなどで局所的に融点を超えれば表面が溶けます。溶けた金属は表面張力や電磁力で移動し、固まった後に凹凸や割れを残します。溶融飛散はプラズマへの不純物混入源にもなります。

より厄介なのが、融点よりずっと低い温度で進む再結晶(recrystallization)です。加工されたタングステンは、内部にひずみをためた細かい結晶粒からできていて、この状態ではある程度の粘り(延性)があります。ところが約 15001500 から 1700 K1700 \ \mathrm{K} に加熱されると、ひずみのない大きな結晶粒へと組織が組み変わります。粒が粗大化すると粒界が減り、硬さが下がると同時に、材料は割れやすくなります。

タングステンには、ある温度を境に粘り強い状態からもろい状態へ切り替わる延性脆性遷移温度(ductile-to-brittle transition temperature、DBTT)があります。もともとタングステンの DBTT は室温より高く、常温で扱うと割れやすい難しい材料です。再結晶はこの DBTT をさらに押し上げ、運転を止めて冷えたときに脆性破壊を起こす危険を高めます。

タングステンに特有の現象として、ヘリウム照射によるファズ(fuzz)の形成があります。核融合の燃焼で生まれたヘリウムのイオンが、比較的低いエネルギー(数十 eV\mathrm{eV})でタングステン表面に降り注ぐと、ヘリウムは水素と違ってタングステン中にほとんど溶けないため、原子空孔に集まって微小な泡(バブル)を作ります。表面温度が約 10001000 から 2000 K2000 \ \mathrm{K} の範囲にあると、この泡が成長・結合し、表面が無数のナノメートルスケールの繊維に覆われた綿毛のような組織に変わります。これがファズです。

ファズは表面を実質的にスポンジ状にするため、熱伝導が悪化し、少しの熱でも表面が過熱しやすくなります。また、もろい繊維が剥がれてダストになったり、アーク放電の起点になったりする懸念があります。ファズ形成の条件やその後の挙動は、実際の炉環境を模擬した研究が続いている重要なテーマです。

D-T 反応で生まれる 14.1 MeV14.1 \ \mathrm{MeV} の中性子は、電気的に中性なので磁場に曲げられず壁の奥まで入り込み、原子をはじき飛ばして格子の中に欠陥のカスケードを作ります。この損傷量は、原子 1 個あたり平均何回はじき出されたかを表す dpa(displacements per atom)という単位で測ります。DEMO 級のダイバータでは年間 55 から 10 dpa10 \ \mathrm{dpa} に達すると見積もられています。

中性子照射は二重の意味で材料を痛めつけます。一つは、生じた欠陥が転位の動きを妨げて材料を硬く、もろくする照射硬化で、これが DBTT をさらに上昇させます。もう一つは、中性子と原子核の反応(核変換)でヘリウムが炉内部でも生成され、これが粒界に集まって粒界を弱くする効果です。

とくに重要なのは、これらの効果が単独ではなく重なり合って作用することです。表面ではプラズマからのヘリウムがファズを作り、内部では中性子が欠陥と核変換ヘリウムを生み、高熱負荷が再結晶を進める。こうした複数の劣化機構が同時に進行したときに材料がどう振る舞うかを、実際の運転条件に近い環境で評価することが、材料研究の中心的な難しさになっています。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

現在進められている研究の方向を、キーワードとともに紹介します。

タングステン合金の開発が一つの柱です。酸化物分散強化タングステン(oxide dispersion-strengthened tungsten、ODS-W)は、微細な酸化物粒子を分散させて再結晶や結晶粒の粗大化を抑え、高温での強度を保とうとするものです。タングステンにレニウムを加えた W-Re 合金は延性を改善しますが、中性子照射でレニウムが核変換により増える点や資源制約が課題として議論されています。複数の元素をほぼ等量混ぜる高エントロピー合金(high-entropy alloy)や、繊維で強化して破壊時のエネルギー吸収を高める W_f/W 複合材(tungsten fiber-reinforced tungsten)も、脆性を克服する候補として研究されています。

固体材料の限界を根本から回避しようとするのが、液体金属ダイバータ(liquid metal divertor)という発想です。表面を液体金属の流れで覆えば、削れても常に新しい面が供給されるので損耗の概念がなくなり、溶融の心配もなく、内部の照射損傷もその都度洗い流されます。

液体金属の候補として、リチウム(lithium、Li)が研究されています。リチウムは最も軽い金属で、プラズマに混ざっても汚しにくいうえ、水素を強く吸着してプラズマ端の粒子リサイクリングを抑える壁ポンピング効果を持ちます。NSTX などの装置では、リチウム壁の導入によって閉じ込め性能の向上が報告されています。もう一つの候補である錫(tin、Sn)は、化学的に安定で蒸気圧が低いため、プラズマ中への蒸発による汚染を抑えやすいという特徴があります。

液体金属をどう保持し供給するかも研究テーマです。多孔質のタングステンや金属メッシュに液体金属を毛細管力でしみ込ませて保持する毛細管多孔質システム(capillary porous system、CPS)が代表的な方式で、液体金属が磁場と電流の相互作用で飛散しないよう制御することが鍵になります。

材料データを実環境で取得する取り組みも重要です。核融合炉の中性子スペクトルを地上で再現する強力な中性子源はまだ存在しないため、加速器で生成する中性子を使う IFMIF-DONES(International Fusion Materials Irradiation Facility - DEMO Oriented Neutron Source)の計画が進められています。これは DEMO 設計に必要な、高い dpa まで照射した材料のデータベースを構築することを目的としています。

問 1. プラズマ対向材料において、削れにくさと汚しにくさが矛盾しがちなのはなぜですか。
問 2. 物理スパッタリングと化学スパッタリングの違いとして正しいものはどれですか。
問 3. ITER が炭素材料の使用を断念した主な理由はどれですか。
問 4. タングステンの再結晶脆化とヘリウムファズが起こる条件と問題の組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 5. 液体金属ダイバータが固体材料に対して原理的に有利な点はどれですか。
  • 第一壁 - プラズマ対向材料が使われる第一壁の設計
  • ダイバータ - 熱と粒子を集中的に受け止める部品
  • 構造材料 - ブランケットや真空容器を支える材料