プラズマの不安定性
高温プラズマは、放っておくと自分から形を崩し、暴れ出そうとします。この「暴れやすさ」がプラズマ不安定性(plasma instability)です。不安定性は閉じ込めを乱し、核融合炉の性能を制限する最大の要因の一つです。このページでは、不安定性とは何かという直感から始めて、トカマクで問題になる代表的なモードを一つずつ理解し、それらを制御する研究の最前線まで積み上げていきます。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”不安定とは何かを、まず身近な例で考えてみましょう。鉛筆を机の上に寝かせて置けば、少し押しても元に戻るか、その場に留まります。これが安定です。ところが鉛筆を芯の先で立てようとすると、ほんのわずかな傾きがどんどん大きくなって倒れてしまいます。これが不安定です。
大事なのは、不安定な状態では「小さなずれが自分で成長していく」という点です。誰かが強く押す必要はありません。ほんの少しのゆらぎがあれば、それをきっかけに勝手に大きくなっていきます。プラズマの不安定性も同じで、閉じ込められたプラズマにはたくさんのエネルギーが蓄えられており、そのエネルギーがより低い状態へ移ろうとして、小さなゆらぎを一気に成長させるのです。
もう一つ、直感をつかむのにぴったりの例があります。コップに水を入れ、その上にそっと油を浮かべると、軽い油が上、重い水が下という安定な並びになります。ところが逆に、重い水を軽い油の上に乗せようとすると、水は油の中へ落ち込み、油は水を突き抜けて浮き上がろうとして、境界がぐちゃぐちゃに乱れます。重いものが軽いものの上にある状態は不安定なのです。この現象をレイリー・テイラー不安定性(Rayleigh-Taylor instability)と呼びます。
プラズマでは、この「重い水」の役割を高い圧力のプラズマが、「軽い油」の役割を磁場が担うことがあります。磁場でプラズマを押さえつけていると、ちょうど水を油の上に乗せているような配置になり、プラズマが磁場を突き破って外へ噴き出そうとするのです。核融合炉の中で起きる不安定性の多くは、このレイリー・テイラー不安定性の親戚だと思うと、全体像がつかみやすくなります。
トカマクという装置では、ドーナツ状の容器の中でプラズマにらせん状の磁場をかけて閉じ込めます。このらせんの巻き方や、プラズマに流れる電流、プラズマの圧力のバランスが少しでも悪いと、プラズマ全体がぐにゃりと曲がったり、部分的に膨らんだり、ちぎれたりします。次の節から、こうした暴れ方に一つずつ名前をつけて見ていきましょう。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”不安定性を物理として扱うとき、まず知っておきたいのは、プラズマを一つの流体とみなして磁場と一緒に運動を記述する電磁流体力学(magnetohydrodynamics, MHD)の枠組みです。MHD で扱う巨視的な不安定性は、大きく電流駆動型と圧力駆動型に分けられます。前者はプラズマに流れる電流がエネルギー源、後者はプラズマの圧力がエネルギー源です。
電流駆動型の代表がキンクモード(kink mode)です。電流の流れる細い柱は、自分の作る磁場によって、まっすぐより「らせん状に曲がったほうが得」という状況になることがあります。ちょうど電線がねじれてこぶを作るように、プラズマ柱全体がらせん状に変形するのです。似た仲間にソーセージモード(sausage mode)があり、こちらはプラズマ柱がところどころくびれて、ソーセージのように太いところと細いところを作ります。細くなった部分では磁場が強まってさらに締めつけ、くびれが加速します。
ここで登場する最重要のパラメータが安全係数(safety factor) です。 は、磁力線がドーナツを長い方向(トロイダル方向)に何周する間に、短い方向(ポロイダル方向)に 1 周するかを表す数です。式で書くと、円形断面の近似で
となります。 は磁力線の通る半径、 はドーナツの大半径、 はトロイダル磁場、 はポロイダル磁場です。 が大きいほど磁力線はゆるやかにねじれており、プラズマは安定になります。「安全」係数という名前は、まさに安定性の余裕を測る指標だからです。
キンクモードに対しては、円柱プラズマの 外部キンクモードがプラズマ表面での安全係数 で安定化されることが知られており、これをクルスカル・シャフラノフ限界(Kruskal-Shafranov limit)と呼びます。実際のトカマクでは、より高次のモードなども避けるため、 程度を安定運転の目安にします。プラズマ内部については、 となる面に共鳴する内部キンクモードが現れ、これがソートゥース振動(sawtooth oscillation)の原因になります。ソートゥース振動では、中心部の温度が緩やかに上昇したあと急激に落ち込むサイクルを繰り返し、その波形がのこぎりの歯に似ていることから名づけられました。周期はおよそ 10〜100 ms 程度です。
圧力駆動型の代表がバルーニングモード(ballooning mode)です。ドーナツの外側(トーラス外側)では、磁場の曲がり方がプラズマにとって不利な向き、いわゆる悪い曲率の領域になっています。ここでは高い圧力のプラズマが、風船が弱いところで膨らむように局所的にふくれ上がろうとします。名前のとおり、風船(balloon)のイメージです。プラズマがどこまで圧力を高められるかは、規格化ベータ(normalized beta) という量で測られ、経験的にトロヨン限界(Troyon limit)と呼ばれる上限(壁が遠い場合の でおよそ 2.8、実際のトカマクでは 3〜3.5 程度まで)が知られています。ベータとは、プラズマの圧力を磁場の圧力で割った比で、閉じ込めの効率を表す重要な指標です。
もう一つ、抵抗が効くことで起きる不安定性があります。理想的なプラズマでは磁力線とプラズマは一緒に動き、磁力線がつなぎ変わることはありません。しかし現実のプラズマにはわずかな電気抵抗があり、これによって磁力線が切れてつなぎ変わる磁気再結合(magnetic reconnection)が起こります。この再結合が共鳴面で進むと、そこにティアリングモード(tearing mode)が発達します。ティア(tear)は「引き裂く」の意味で、磁力線が引き裂かれてつなぎ変わる様子を表しています。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”ティアリングモードの結果として現れるのが磁気島(magnetic island)です。もともと同心円状に入れ子になっていた磁気面が、共鳴面のまわりで局所的につなぎ変わり、断面で見ると島のように閉じた磁力線の構造ができます。磁気島の内部では磁力線が短絡するため、温度と密度が島を横切ってすぐに一様化してしまいます。閉じ込めとは中心と周辺の間に大きな勾配を保つことですから、島の中で勾配が消えることは、その分だけ閉じ込め性能が落ちることを意味します。
とりわけ厄介なのがネオクラシカルティアリングモード(neoclassical tearing mode, NTM)です。トカマクプラズマには、圧力勾配によって自発的に流れるブートストラップ電流(bootstrap current)があります。磁気島の内部では圧力勾配が消えるため、この電流も欠損します。欠損した電流が磁気島をさらに広げる向きに働くため、いったん小さな島(シード磁気島)ができて臨界サイズを超えると、島が自分で成長を始めるのです。NTM は高ベータ運転を制限する主要因で、とくに 面と 面に立つ島が問題になります。長周期化したソートゥース(モンスターソートゥース)が、NTM のシード磁気島を作ってしまうこともあります。
キンク系にも、抵抗の効果が絡む重要なモードがあります。抵抗性壁モード(resistive wall mode, RWM)は、本来なら周囲の完全導体壁で安定化されるはずの外部キンクモードが、壁の有限の抵抗によって時間をかけてしみ出し、ゆっくり成長してしまうものです。RWM はプラズマの回転や能動的なフィードバック制御によって安定化できることが知られています。
境界に局在する不安定性としては、ELM(edge localized mode, エッジ局在モード)が重要です。高い閉じ込め状態である H モードでは、プラズマ周辺に急な圧力の壁、ペデスタル(pedestal)が立ちます。この急峻な勾配と、そこに流れる大きなブートストラップ電流が、圧力駆動と電流駆動の両方を兼ね備えたペーリング・バルーニング不安定性を引き起こし、周期的にペデスタルのエネルギーを吐き出します。これが ELM です。とくに Type I ELM は周波数 10〜100 Hz 程度で、ペデスタルエネルギーの数パーセントから 10 数パーセントを一度に放出します。放出されたエネルギーはダイバータへ瞬間的な熱負荷として集中し、大型装置では壁材料の損傷につながる深刻な問題になります。
最も激しい現象がディスラプション(disruption)です。これはプラズマ放電が突然崩壊して終わる大事件で、単一の不安定性というより、複数の不安定性が連鎖して起きる破局です。密度を上げすぎたときのグリーンワルド限界(Greenwald limit)や、ベータを上げすぎたときのベータ限界を超えると、大きな磁気島が成長して磁気面が壊れ、ディスラプションに至ります。過程は二段階で進みます。まず熱クエンチ(thermal quench, およそ 1〜10 ms)で蓄えた熱エネルギーが一気に失われ、続く電流クエンチ(current quench, およそ 10〜100 ms)でプラズマ電流が急減します。電流の急変が容器に大きな電磁力を生み、ハロー電流や逃走電子(runaway electron)が機器に深刻な損傷を与えます。ディスラプションをいかに避け、避けきれないときにいかに被害を和らげるかは、炉設計の中心課題の一つです。
一方、閉じ込めをじわじわと蝕むのが微視的不安定性(microinstability)です。これは装置全体を壊すような大きな変形ではなく、プラズマの中でイオンや電子のスケールで起きる細かなゆらぎで、乱流(turbulence)を生み出します。乱流は熱と粒子を勾配を横切って運び出し、古典理論の予測をはるかに超える異常輸送(anomalous transport)の正体になっています。代表的なものに、イオンの温度勾配が駆動するイオン温度勾配モード(ion temperature gradient mode, ITG)、捕捉された電子が関与する捕捉電子モード(trapped electron mode, TEM)、電子スケールの電子温度勾配モード(electron temperature gradient mode, ETG)があります。これらは MHD 不安定性とは異なり、プラズマを粒子の速度分布まで含めて扱う運動論(kinetic theory)の枠組みで記述され、ジャイロ運動論(gyrokinetics)による大規模シミュレーションが理論研究の主役になっています。輸送との関係は、輸送のページでさらに詳しく扱います。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”現在の研究では、これらの不安定性を「起きてから抑える」だけでなく、「起きる前に予測して避ける」方向へと重心が移りつつあります。
NTM 制御では、電子サイクロトロン電流駆動(electron cyclotron current drive, ECCD)が標準的な手段として確立しています。磁気島の O 点(島の中心)にねらって局所的に電流を駆動し、欠損したブートストラップ電流を補うことで島の成長を止めます。ねらった場所に正確にビームを当て続けるためのリアルタイム制御が研究の焦点です。
ELM 制御では、共鳴磁場摂動(resonant magnetic perturbation, RMP)が有力視されています。外部コイルから小さなヘリカル磁場を加えて周辺の磁気面をわずかに乱し、大きな Type I ELM を、小刻みで穏やかな放出に変える、あるいは完全に抑え込むアプローチです。ペレット入射による ELM ペーシング(人工的に小さな ELM を誘発してエネルギー放出を小分けにする手法)も並行して研究されています。ITER のような大型装置では、制御されない Type I ELM の熱負荷が許容できないため、ELM の完全抑制または十分な緩和が実現すべき要件になっています。
ディスラプション予測は、近年とくに機械学習が盛んに応用されている領域です。多数の診断信号からディスラプションの前兆をリアルタイムで検出し、間に合ううちに緩和動作へ移す研究が進んでいます。緩和手段としては、大量ガス入射(massive gas injection)やシャッタードペレット入射(shattered pellet injection)で不純物を一気に注入し、蓄積エネルギーを放射として穏やかに逃がすとともに、逃走電子の発生を抑える手法が開発されています。逃走電子そのものの発生機構と抑制も、活発な研究テーマです。
微視的不安定性と乱流の分野では、ジャイロ運動論シミュレーションと実験計測を突き合わせ、乱流輸送を第一原理から予測しようとする検証(validation)の取り組みが続いています。乱流が自ら作り出す帯状流(zonal flow)が乱流を弱める自己制御の仕組みや、閉じ込めが急に良くなる輸送障壁(transport barrier)の形成機構は、いまも中心的な問いとして研究されています。論文では ITG, TEM, ETG, zonal flow, gyrokinetics, ExB shear といったキーワードが頻出します。