超伝導コイル
核融合炉は、1 億度を超えるプラズマを閉じ込めるために、地磁気の数十万倍という強い磁場を必要とします。この磁場を普通の銅線コイルで作ろうとすると、発熱で電力の大半が失われてしまいます。そこで登場するのが、電気抵抗がゼロになる超伝導コイルです。このページでは、超伝導の直感から、材料の選び方、大型導体の構造、事故時の保護、そして最先端の高温超伝導マグネットまでを順番に見ていきます。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”電気を通す線には、必ず電気抵抗があります。抵抗があると、電流を流すたびに線が発熱します。電気ストーブが赤く光るのも、電球のフィラメントが光るのも、この発熱を利用したものです。役に立つこともありますが、コイルで磁場を作りたいときには、この発熱はただの損失です。
磁場の強さは、コイルに流す電流の大きさでほぼ決まります。強い磁場がほしければ、たくさんの電流を流す必要があります。ところが発熱は電流の 2 乗に比例して増えるので、電流を 10 倍にすると発熱は 100 倍になります。核融合炉に必要な強磁場を銅コイルで出そうとすると、発熱量は数百 MW(メガワット)にもなり、これは発電所が生み出す電力そのものに匹敵します。せっかく核融合でエネルギーを取り出しても、コイルを動かすだけで使い果たしてしまうのです。
ここで超伝導(superconductivity)という現象が助けになります。ある種の金属や化合物は、うんと低い温度まで冷やすと、電気抵抗が完全にゼロになります。抵抗がゼロなら、いくら電流を流しても発熱しません。一度電流を流し始めれば、電源を切っても電流が流れ続けるほどです。つまり、発熱を気にせず好きなだけ大きな電流を流し、強い磁場を作れます。
もちろんただではありません。抵抗をゼロにするには、材料を絶対零度(マイナス 273 度)に近い、およそ 4 K(ケルビン)、つまりマイナス 269 度まで冷やす必要があります。この冷却には液体ヘリウムを使い、専用の冷凍機で常に冷やし続けます。冷却にも電力は要りますが、銅コイルの発熱を賄うよりずっと少なくて済みます。冷やす手間を払ってでも抵抗ゼロを手に入れる、というのが超伝導コイルの基本的な考え方です。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”まず、なぜ銅コイルでは足りないのかを式で確認します。抵抗 の導体に電流 を流すと、発生するジュール熱は次式で表されます。
は発熱の電力(W)、 は電流(A)、 は抵抗(Ω)です。発熱が電流の 2 乗に比例するのがポイントです。核融合炉のトロイダル磁場コイル(toroidal field coil)は数万アンペアという大電流を流すので、わずかな抵抗でも は膨大になります。超伝導では なので、この項が原理的に消えます。
超伝導体には二種類あります。第一種超伝導体(type-I superconductor)は弱い磁場しか排除できず、少しでも強い磁場をかけると超伝導が壊れます。核融合で使うのは第二種超伝導体(type-II superconductor)です。こちらは磁場を糸状の磁束線(fluxoid)として内部に部分的に通しながら、より高い磁場まで超伝導を保てます。
第二種超伝導体を特徴づけるのが、次の三つの臨界量です。これらを超えると超伝導は失われ、抵抗が復活します。
臨界温度 (critical temperature)は、超伝導になれる上限の温度です。これより高いと、いくら磁場や電流が小さくても超伝導になりません。臨界磁場 (upper critical field)は、その材料が耐えられる磁場の上限です。臨界電流密度 (critical current density)は、単位断面積あたりに流せる電流の上限です。
この三つは互いに独立ではなく、一つの曲面を作ります。温度を上げると許容できる磁場や電流は下がり、磁場を強めると許容電流は下がります。設計では、運転温度・運転磁場・運転電流のすべてがこの臨界曲面の内側に、しかも余裕(運転マージン)を持って収まるようにします。
核融合で使われる代表的な低温超伝導材料は二つです。
NbTi(ニオブチタン)は延性があり加工しやすく、安価です。ただし臨界磁場が 4.2 K でおよそ 11.5 T(テスラ)と比較的低いので、磁場のそれほど強くない部分に使われます。ITER では、プラズマの位置と形を制御するポロイダル磁場コイル(poloidal field coil)に採用されています。
Nb3Sn(ニオブ 3 スズ)は臨界磁場が 25 T 程度と高く、より強い磁場に耐えます。反面、化合物であるため脆く、コイルに巻いた後で高温の熱処理を施して超伝導相を作る必要があります。歪みに弱いので、製造と支持構造の設計が難しい材料です。ITER では最も強い磁場がかかる TF コイルと中心ソレノイド(central solenoid)に使われています。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”大型の超伝導コイルでは、素線をそのまま巻くのではなく、ケーブル・イン・コンジット導体(cable-in-conduit conductor, CICC)という構造が広く使われます。直径 1 mm 弱の超伝導素線を何百本も多段に撚り合わせてケーブルにし、それをステンレス鋼の頑丈な管(コンジット)の中に収めます。管とケーブルの隙間には超臨界ヘリウムを流し、内側から直接 4.5 K に冷却します。ステンレス鋼の管は、後述する強大な電磁力を受け止める構造材も兼ねています。
なぜここまで複雑な構造にするのかには、いくつかの理由があります。素線を細く分けて撚るのは、磁場が変動したときに素線内部に生じる交流損失(AC loss)を抑えるためです。太い一本の導体では、変動磁場で発生する渦電流の損失が大きくなります。撚り合わせることで、素線どうしの電磁的な結合も断ち切り、電流が全素線に均等に流れるようにします。ヘリウムを導体内部に流し込むのは、発熱源のすぐ近くで冷やすことで温度上昇を最小に保つためです。
TF コイルの形状にも物理が反映されています。ITER の TF コイルは D 字型をしています。これは、電流と磁場が作るローレンツ力が、コイルの各部分に曲げモーメントをかけず、張力だけで釣り合うような形(constant-tension shape)を選んだ結果です。曲げ応力より張力の方が構造的に扱いやすいので、大きな電磁力を安全に支えられます。ITER の TF コイルは 18 基あり、最大磁場は 11.8 T、系全体に蓄えられる磁気エネルギーは 41 GJ(ギガジュール)に達します。この蓄積エネルギーの大きさが、次に述べる保護の難しさの根源になります。
コイル系はおおむね三つの役割に分かれます。TF コイルはプラズマを取り巻くトロイダル磁場を作り、閉じ込めの背骨になります。中心ソレノイドは変圧器の一次巻線として働き、その電流を時間変化させることで、プラズマ自身に電流を誘導します。ITER の中心ソレノイドは Nb3Sn 製で最大磁場は約 13 T、これによって数百秒のパルス運転を可能にします。ポロイダル磁場コイルは、プラズマの垂直位置や断面形状を制御します。
冷却に要する電力も無視できません。カルノー効率の制約から、4.5 K で 1 W の熱を汲み出すには室温側でおよそ 300 W の電力が要ります。ITER の低温設備は 4.5 K 換算で数十 kW 規模の冷凍能力を持ち、消費電力は数十 MW に及びます。熱負荷は、輻射や伝導で定常的に入る静的熱負荷と、磁場変動時の交流損失や核融合中性子による核発熱といった動的熱負荷に分けて設計します。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”超伝導コイルで最も深刻な事故がクエンチ(quench)です。何らかの原因で導体の一部が超伝導を失って常伝導に戻ると、そこに抵抗が生じて発熱し、その熱で隣が温まってさらに常伝導領域が広がる、という連鎖が起こります。コイルに蓄えられた巨大な磁気エネルギーが、もし局所の小さな体積に集中して解放されれば、導体は溶けてしまいます。
そこで検出と保護が鍵になります。クエンチの検出には、コイルの各部の電圧を比較する差動電圧法(differential voltage method)がよく使われます。抵抗が生じた場所には誘導性でない電圧が現れるので、これを見分けます。検出したら、蓄積エネルギーを外部の放電抵抗(dump resistor)へ速やかに逃がすか、コイル全体に埋め込んだヒーターで意図的に全体をクエンチさせ、エネルギーをコイル全体に分散させます。目標は、導体の最高到達温度をおよそ 150〜200 K 以下に抑えることです。ここで研究上の頻出キーワードが hot-spot temperature(ホットスポット温度)です。
近年の最前線は、高温超伝導(high-temperature superconductor, HTS)です。中でも REBCO(希土類系銅酸化物、rare-earth barium copper oxide)は、臨界温度が約 92 K と液体窒素温度を超え、不可逆磁場は 100 T をも上回ります。この高い臨界磁場のおかげで、20 T 級というこれまで届かなかった強磁場のマグネットが視野に入りました。REBCO は薄いテープ状に加工されるため、テープの積層としてコイルを構成します。
磁場を強くできることの意味は大きいです。核融合の出力密度はおおよそ磁場の 4 乗に比例するため、磁場を 2 倍にすると出力密度は 16 倍になります。同じ核融合出力なら装置をずっと小さくできる、という発想がコンパクトトカマク路線です。2021 年、MIT と Commonwealth Fusion Systems(CFS)は、REBCO を用いた大型 TF コイルの試作品で 20 T の磁場を実証し、この路線に現実味を与えました。この技術は同社の SPARC に用いられ、ITER より大幅に小さい装置で核融合出力 を目指しています。
HTS には独自の難しさもあります。REBCO のクエンチ伝播速度は毎秒 1〜10 mm 程度と低温超伝導より桁違いに遅く、常伝導領域が広がる前に局所が過熱してしまうため、クエンチの検出が難しくなります。そこで大きな運転マージンや高密度のモニタリングが研究されています。また、あえてターン間に絶縁を入れない無絶縁(no-insulation)巻線では、局所的に抵抗が上がった箇所を電流がターン間で迂回できるため、自己保護的にふるまうことが期待され、盛んに調べられています。このほか、REBCO テープの量産コスト低減、接合技術、中性子照射に対する放射線耐性(radiation hardness)の実証が、実用炉に向けた主要な課題です。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”関連トピック
Section titled “関連トピック”- トカマク方式 - 超伝導コイルが作る磁場配位とトカマクの構成要素
- ITER プロジェクト - Nb3Sn による 11.8 T 級 TF コイルを備えた世界最大のトカマク
- SPARC - REBCO 高温超伝導で 20 T 級磁場を狙うコンパクトトカマク