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放射性廃棄物

核融合炉の放射性廃棄物は、核分裂炉とは成り立ちが根本的に違います。このページでは、なぜ核融合では長寿命の高レベル廃棄物が出ないのか、それでもなぜ廃棄物が生じるのか、そして材料設計でどこまで減らせるのかを、直感から研究の最前線まで順に見ていきます。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

まず、核分裂と核融合で「ゴミの正体」がまったく違うことを押さえましょう。

核分裂炉は、ウランという重い原子核を割ってエネルギーを取り出します。割れた破片(核分裂生成物)や、中性子を吸って生まれるプルトニウムのような超重い元素が、燃料そのものの中にたまっていきます。これらの中には、放射線を出し続ける期間が数万年におよぶものがあります。つまり核分裂では、燃やしたあとの燃料自体が長寿命の高レベル廃棄物になります。

核融合炉はこれと正反対です。燃料は水素の仲間である重水素(deuterium)と三重水素(tritium、トリチウム)で、周期表のいちばん軽い元素です。軽い原子核をくっつけてもプルトニウムのような重い元素は生まれません。ですから、燃料が化けて長寿命のゴミになる、という現象そのものが起きません。

ではなぜ核融合でも放射性廃棄物が出るのでしょうか。鍵は、反応で飛び出す中性子(neutron)です。重水素と三重水素が融合すると、非常に速い中性子が飛び出します。この中性子が炉の壁や構造物(金属など)に突き刺さると、もともとは放射能を持たなかった金属の原子が放射線を出す原子に変わってしまいます。これを放射化(activation)と呼びます。

たとえるなら、日焼けに似ています。核融合炉では燃料そのものは汚れたゴミになりません。その代わり、強い光(中性子)を浴び続けた「まわりの容器」が日焼けするように放射化していく、というイメージです。しかもこの日焼けは、材料を上手に選べば「すぐ冷めるタイプ」にできます。核融合廃棄物の性質は、燃料ではなく、どんな材料で炉を作るかで決まる、というのが最大のポイントです。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

放射化の正体は、原子核が中性子を捕まえて別の核種に変わる核変換(nuclear transmutation)です。中心となるのが中性子捕獲(neutron capture)と呼ばれる反応です。

ある原子核 ZAX^A_Z X が中性子を 1 個吸収すると、質量数が 1 増えた同じ元素の同位体になります。

ZAX+nZA+1X+γ^{A}_{Z}X + n \rightarrow {}^{A+1}_{Z}X + \gamma

これは、標的核 XX が中性子 nn を吸い込み、余ったエネルギーをガンマ線 γ\gamma として放出して、質量数が AA から A+1A+1 に増えることを表します。こうして生まれた同位体が不安定なら、放射性核種(radionuclide)として崩壊していきます。中性子のエネルギーが高いときは、(n,p)(n,p) 反応(中性子を吸って陽子を出す)や (n,α)(n,\alpha) 反応(アルファ粒子を出す)も起こり、元素そのものが変わることもあります。DT 反応で生じる 14.1 MeV の中性子は非常に高速なので、こうした反応が幅広く起こる点が核融合の特徴です。

放射性核種の量は、時間とともに指数関数で減っていきます。ある核種の原子数を NN、崩壊定数を λ\lambda とすると、

N(t)=N0eλt,λ=ln2T1/2N(t) = N_0 \, e^{-\lambda t}, \qquad \lambda = \frac{\ln 2}{T_{1/2}}

と書けます。ここで N0N_0 は初期の原子数、T1/2T_{1/2} は半減期(half-life)、すなわち量が半分になるまでの時間です。半減期が短い核種は激しく崩壊しますが、そのぶん早く消えます。逆に半減期が長い核種は弱いながらも長く残ります。廃棄物の管理でやっかいなのは後者です。

核融合の構造材に鉄鋼を使うと、放射化で主に 55Fe^{55}\mathrm{Fe}(半減期 約 2.7 年)、54Mn^{54}\mathrm{Mn}(約 312 日)、60Co^{60}\mathrm{Co}(約 5.27 年)といった核種が生じます。いずれも半減期が数年以下で、数十年から 100 年ほど冷やせば大きく減衰します。問題は、材料にニッケルやモリブデン、ニオブといった元素が含まれる場合です。これらは中性子照射で半減期が数万年におよぶ長寿命核種を生み、廃棄物の性質を悪化させます。だからこそ、どの元素を材料に入れるかが決定的に効いてきます。

中性子はエネルギーを与えるだけでなく、原子を格子の位置からはじき出して材料を傷めます。この損傷量の単位が dpa(displacements per atom、原子あたりのはじき出し回数)です。核融合炉の第一壁は運転中に 100 dpa を超える損傷を受けると見積もられており、放射化とあわせて材料の寿命を決める要因になります。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

放射化を定量的に扱うには、多数の核種が中性子照射のもとで生成と崩壊を繰り返す系を追う必要があります。核種 ii の原子数 NiN_i の時間変化は、生成と消滅を足し合わせた連立の常微分方程式で記述されます。

dNidt=j(λji+ϕσji)Nj(λi+ϕσi)Ni\frac{dN_i}{dt} = \sum_{j} \left( \lambda_{j \to i} + \phi\,\sigma_{j \to i} \right) N_j - \left( \lambda_i + \phi\,\sigma_i \right) N_i

第 1 項は、他の核種 jj が崩壊(崩壊定数 λji\lambda_{j \to i})または中性子反応(反応断面積 σji\sigma_{j \to i}、中性子束 ϕ\phi)によって核種 ii に変わる寄与です。第 2 項は、核種 ii 自身が崩壊または中性子反応で消えていく寄与です。この生成消滅方程式(バーンアップ方程式)を、数百から数千の核種について同時に解くことで、運転中と運転後の放射化インベントリ(放射性核種の在庫量)が求まります。

ここで重要なのが中性子スペクトルです。DT 中性子は 14.1 MeV で生まれますが、ブランケットや構造材の中で散乱を繰り返し、低いエネルギーへと減速していきます。反応断面積 σ\sigma はエネルギーに強く依存するため、どのエネルギーの中性子がどれだけ材料に届くかで、生じる核種の種類と量が変わります。したがって放射化評価は、中性子の輸送計算(どのエネルギーの中性子がどこにどれだけ存在するか)と、核種変換の計算を組み合わせて初めて成立します。

低放射化材料の設計思想は、この枠組みから自然に導かれます。目標は、運転停止後に長寿命核種をできるだけ生まないことです。そのために、長寿命核種の親となる合金元素を、性能の近い別の元素で置き換えます。代表例が低放射化フェライト・マルテンサイト鋼(RAFM 鋼、reduced-activation ferritic/martensitic steel)です。日本の F82H や欧州の EUROFER97 では、通常の鋼に含まれるモリブデンやニオブを、放射化特性の良いタングステンやタンタルで置き換えています。あわせて、ニッケルやコバルトといった長寿命核種を生む不純物を極限まで減らす管理も行います。

減衰の時間スケールの違いは、この設計の成果を象徴しています。核分裂の使用済み燃料は、超ウラン元素のために天然ウラン鉱石なみの放射能に戻るまで数万年から数十万年を要します。一方、低放射化材料で作った核融合構造材は、運転停止後およそ 100 年ほど冷却すれば、放射能が大きく下がり、多くが人が扱える水準に近づくと評価されています。同じ「放射性廃棄物」という言葉でも、管理すべき時間の桁が数万年と 100 年で異なるのです。この差は燃料の違いではなく、あくまで材料設計が生み出しているものだ、という点を強調しておきます。

低放射化材料の物理は、他の材料の話題ともつながっています。構造材そのものの設計は 構造材料 で、核分裂との全体像の比較は 核分裂と核融合の比較 で扱っています。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

放射化インベントリの評価は、核融合炉の安全設計と廃棄物計画を支える中心的な研究分野です。世界では放射化計算コード(activation code)が整備されており、代表的なものに欧州の FISPACT-II があります。これらは核変換の生成消滅方程式を解き、運転後の放射能、崩壊熱(decay heat)、被曝線量を核種ごとに予測します。計算の精度は入力となる核データ(核反応の断面積など)の質に左右されるため、EAF や TENDL といった専用の核データライブラリの整備と検証が継続的な研究テーマになっています。断面積の不確かさが最終的なインベントリ評価にどう伝わるかを見積もる不確かさ伝播(uncertainty propagation)も活発に研究されています。

材料面では、いくつかの方向が並行して進められています。RAFM 鋼をさらに高温で使うための酸化物分散強化鋼(ODS steel)、極めて低い放射化を狙うバナジウム合金や炭化ケイ素複合材料(SiC/SiC composite)、そして不純物として避けたいニッケルなどを製錬段階から抑える高純度化技術です。いずれも、性能(強度、耐熱、耐照射)と放射化特性を両立させるという難問に取り組んでいます。実際の 14 MeV 中性子環境を模擬してデータを取得するための強力な中性子源として、国際核融合材料照射施設(IFMIF、および日本の A-FNS などの後継計画)の整備も長年の課題です。

廃棄物の出口側では、クリアランス(clearance)とリサイクル(recycling)の考え方が研究されています。クリアランスとは、放射能が十分低い材料を規制の対象から外し、一般の資源として扱う制度です。冷却によってクリアランスレベルまで下がった構造材を、遮蔽下で再溶融して新しい炉の部材へ戻す「核融合内でのリサイクル」も概念設計として検討されています。ただし、遠隔操作で回収した材料をどこまで再利用できるか、経済性が成り立つかは今後の評価課題です。

炉の運転を終えたあとの廃止措置(decommissioning)も重要な研究テーマです。放射化した炉内機器は人が近づけないため、解体はロボットによる遠隔保守(remote handling)が前提になります。ITER では運転中の保守のために大型の遠隔操作システムが開発されており、その技術は廃止措置にも通じます。運転停止後にどのくらい冷却期間を置けば崩壊熱と線量が扱える水準に下がるか、どの順序でどの機器を切り出すか、切断や除染で二次的な廃棄物をどう減らすか、といった一連の計画が、放射化インベントリ評価の結果を土台に組み立てられています。

なお、核融合施設の放射性物質としてはトリチウム自体の管理も欠かせません。構造材の放射化と並ぶもう一つの柱であり、詳しくは トリチウム管理 で扱います。

問 1. 核融合炉では、なぜ核分裂炉のような長寿命の高レベル廃棄物(プルトニウムなど)が生じないのですか。
問 2. 放射化の中心となる中性子捕獲反応では、標的核に何が起きますか。
問 3. 半減期 T1/2 と崩壊定数 λ の関係、および半減期が廃棄物管理で重要な理由として正しいものはどれですか。
問 4. 低放射化フェライト・マルテンサイト鋼(RAFM 鋼)では、どんな考え方で合金元素を選んでいますか。
問 5. 核分裂の使用済み燃料と、低放射化材料の核融合構造材とでは、放射能が下がるまでの時間スケールがどう違いますか。