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JT-60SA

JT-60SA は、茨城県那珂市にある世界最大級の超伝導トカマク型核融合実験装置です。日本と欧州が共同で建設し、2023 年 10 月に初プラズマ(最初にプラズマを点火すること)を達成しました。このページでは、この装置がどんなものかを高校レベルのイメージから始めて、装置の物理と工学、そして ITER 支援と DEMO 炉開発の中でどんな役割を担うのかまでを順番に見ていきます。

この装置をひとことで(高校レベル)

Section titled “この装置をひとことで(高校レベル)”

核融合とは、軽い原子核どうしがくっついて重い原子核になり、そのときに大きなエネルギーを出す反応です。太陽が光り輝いているのも、中心で核融合が起きているからです。地上で同じことを起こすには、燃料を 1 億度を超える超高温にして、原子核がばらばらに飛び交う状態、つまりプラズマ(plasma)を作る必要があります。

問題は、そんな高温のものをどんな容器にも入れられないことです。触れた瞬間に容器が溶けてしまいます。そこで登場するのが磁場です。プラズマは電気を帯びた粒子の集まりなので、磁石の力(磁場)で閉じ込めることができます。ドーナツ形の磁場のかごを作ってプラズマを浮かせ、壁に触れさせずに閉じ込める装置を、トカマク(tokamak)と呼びます。トカマクのしくみは トカマク型のページ で詳しく説明しています。

JT-60SA は、このトカマクの一種です。名前の「SA」は Super Advanced(超先進的)の略で、超伝導(superconductivity)を使った先進的な装置という意味が込められています。超伝導とは、金属をとても低い温度まで冷やすと電気抵抗がゼロになる現象です。抵抗がゼロなら、電気を流し続けても電線が熱くなりません。ふつうの電磁石は電流を流し続けると熱くなってしまい、長時間は使えません。JT-60SA は超伝導の電磁石を使うことで、強い磁場を長い時間かけ続けられます。

大きさをイメージしてみましょう。JT-60SA は高さがおよそ 15 m、総重量はおよそ 2,600 トンあります。ビルの数階分の高さがある巨大な装置です。この装置で、100 秒という長い時間プラズマを保ち続ける実験ができます。核融合発電を実現するには、プラズマを安定して長く保つ技術が欠かせません。JT-60SA は、そのための「練習と研究の場」だと考えると分かりやすいです。

装置の物理と工学(学部〜大学院レベル)

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ここからは、JT-60SA がどんな物理と工学で成り立っているかを、もう少し踏み込んで見ていきます。

トカマクのプラズマは、ドーナツ形をしています。ドーナツの中心からプラズマ断面の中心までの距離を大半径(major radius) RR、プラズマ断面の半径を小半径(minor radius) aa と呼びます。JT-60SA では R2.96R \approx 2.96 m、a1.18a \approx 1.18 m です。両者の比 A=R/aA = R/a をアスペクト比(aspect ratio)と呼び、JT-60SA では A2.5A \approx 2.5 です。この値は標準的なトカマクよりやや小さく、太めのドーナツ形をしています。太めの形はプラズマの性能を高めやすいという利点があります。

プラズマの中を流れる電流をプラズマ電流(plasma current) IpI_p と呼びます。JT-60SA では IpI_p は最大 5.5 MA(メガアンペア)です。この電流が磁場を作り出し、プラズマ自身を閉じ込める助けになります。ドーナツを一周する向きにかける磁場をトロイダル磁場(toroidal field) BtB_t と呼び、JT-60SA では Bt2.25B_t \approx 2.25 T(テスラ)です。地磁気がおよそ 5×1055 \times 10^{-5} T ですから、その約 4 万倍という強い磁場です。

超伝導マグネットと長時間運転

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強い磁場を長時間かけ続けるために、JT-60SA は超伝導電磁石を使います。マグネットシステムは、トロイダル磁場を作る TF コイル(toroidal field coil) 18 基、プラズマの形と位置を制御する EF コイル(equilibrium field coil) 6 基、そしてプラズマ電流を誘導する中心ソレノイド(central solenoid) 4 モジュールから構成されます。TF コイルには前身の JT-60U から受け継いだ設計思想が生かされ、欧州が担当して製作しました。

なぜ超伝導が長時間運転につながるのか、少し式で考えてみましょう。ふつうの銅の電磁石では、電流 II を抵抗 RnRn の導体に流すと、単位時間あたり

P=RnI2P = Rn I^2

だけの熱が発生します。ここで PP は発熱量(ワット)、RnRn は電気抵抗です。強い磁場を作るには大電流が必要ですが、I2I^2 に比例して発熱が増えるため、コイルが過熱してすぐに運転を止めなければなりません。前身の JT-60U は銅コイルだったため、1 回の運転はおよそ 65 秒が限界でした。

超伝導では Rn=0Rn = 0 なので、原理的に P=0P = 0、つまり発熱しません。JT-60SA は超伝導線材(ニオブチタン NbTi など)を液体ヘリウム温度近くまで冷やして使うことで、この発熱の問題を回避し、100 秒におよぶ長時間運転を可能にしました。核融合発電では、プラズマをできるだけ長く定常的に保つことが求められるので、この長時間運転能力は決定的に重要です。

プラズマを核融合が起きる温度まで温めるには、外から強力にエネルギーを注ぎ込む必要があります。JT-60SA の加熱システムは合計およそ 41 MW(メガワット)の出力を持ちます。中心となるのが中性粒子ビーム入射(neutral beam injection, NBI)です。これは高速の中性原子ビームをプラズマに撃ち込み、衝突によってプラズマを温める方法です。JT-60SA には比較的低いエネルギーの正イオン NBI と、500 keV という高エネルギーの負イオン NBI があります。エネルギーが高いビームほどプラズマの奥深く、中心部まで届いてそこを効率よく温められます。この負イオン NBI 技術は JT-60U 時代から磨かれてきた日本の得意分野です。

これに加えて、電子サイクロトロン加熱(electron cyclotron heating, ECH)を使います。これはマイクロ波をプラズマに当て、電子が磁場のまわりを回る運動の周波数に合わせて共鳴的にエネルギーを与える方法です。ピンポイントで狙った場所を温められるので、プラズマの形を整えたり、後述する不安定性を抑えたりするのにも使えます。

プラズマの性能を語るとき、ベータ値(beta) β\beta という指標がよく使われます。これはプラズマの圧力を磁場の圧力で割った比で、

β=pB2/2μ0\beta = \frac{p}{B^2 / 2\mu_0}

と書けます。ここで pp はプラズマの圧力、BB は磁場の強さ、μ0\mu_0 は真空の透磁率です。β\beta が大きいほど、同じ磁場でより高い圧力のプラズマを閉じ込められていることを意味し、核融合出力の密度が高い、つまり経済的な発電炉に近いことを示します。ただし β\beta を上げすぎるとプラズマが不安定になって壊れやすくなるため、どこまで高い β\beta を安定に保てるかが研究テーマになります。JT-60SA は高ベータ運転の研究を主要な目標のひとつに掲げています。

研究の最前線(博士課程レベル)

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JT-60SA は単独で発電を目指す装置ではなく、次の 2 つの大きな目標に貢献するために設計されています。ひとつは現在フランスで建設が進む ITER の支援、もうひとつはその先の原型炉 DEMO に向けた人材と知見の育成です。

核融合発電を経済的に成立させるには、高い性能のプラズマを、パルス的にではなく定常的に(途切れなく)保ち続ける必要があります。トカマクのプラズマ電流は通常、中心ソレノイドによる誘導(トランスの原理)で駆動されますが、この方法では電流を流し続けられる時間に限りがあります。そこで、非誘導電流駆動(non-inductive current drive)が鍵になります。

非誘導電流の重要な成分が、ブートストラップ電流(bootstrap current)です。これは、プラズマの圧力勾配があると自発的に流れる電流で、外部からエネルギーを注がなくても発生します。高ベータ状態ではブートストラップ電流の割合が高くなるため、高ベータ運転と定常運転は密接に結びついています。JT-60SA は、ブートストラップ電流に NBI や ECH による電流駆動を組み合わせ、規格化ベータ(normalized beta) βN\beta_N で 4 以上という高い値を保ちながら、100 秒級の完全非誘導運転を目指す研究を行っています。

JT-60SA はプラズマの大きさが ITER のおよそ半分で、物理的な相似性が高いため、ここで得た結果を ITER に直接生かせます。先行して調べておくべき代表的なテーマがいくつかあります。ひとつは H モード(high-confinement mode)への遷移条件です。H モードは、ある加熱パワーを超えるとプラズマの閉じ込めが急に良くなる運転状態で、ITER や発電炉の標準運転モードとして想定されています。どんな条件で H モードに入るかを調べるのは重要な課題です。

もうひとつが、周辺局在モード(edge localized mode, ELM)の制御です。H モードのプラズマ周辺では、圧力が周期的に噴き出す不安定性が起こり、これが装置の壁を傷めます。この ELM をいかに小さく抑えるかは、発電炉を長く運転するうえで避けて通れません。さらに、プラズマが突然崩壊するディスラプション(disruption)の予測と緩和も、大きな研究テーマです。ディスラプションは大電流のプラズマが急に消えることで装置に大きな力をかけるため、その予兆をとらえて被害を和らげる技術が求められています。

これらの研究は、日欧の幅広いアプローチ(Broader Approach, BA)と呼ばれる協力の枠組みのもとで進められています。BA は、2005 年に ITER の建設地がフランスに決まった際、ITER に参加する日本と欧州が、ITER を補完し原型炉 DEMO の実現を早めるために合意した協力活動です。JT-60SA はその中核となる装置で、装置そのものの成果に加えて、次世代の核融合研究者や技術者を育てる場としての役割も担っています。ITER と DEMO をつなぐ橋渡し役として、JT-60SA が積み上げる知見は、核融合発電の実現に向けた土台になっていきます。

問 1. JT-60SA が超伝導の電磁石を使うのは、ふつうの銅の電磁石と比べてどんな利点があるからですか。
問 2. ベータ値 β が高いことが核融合発電にとって望ましいのはなぜですか。
問 3. JT-60SA が ITER の支援装置として適しているのはなぜですか。
問 4. 定常運転を実現するうえでブートストラップ電流が重要なのはなぜですか。
  • トカマク型(トカマクの原理): JT-60SA が採用しているトカマク方式のしくみを詳しく学べます。
  • ITER: JT-60SA が支援研究の対象とする、世界最大の核融合実験炉です。
  • DEMO(原型炉): JT-60SA が人材育成と知見の面で橋渡しを目指す、発電実証をになう次世代の炉です。