コンテンツにスキップ

ミラー方式

磁気ミラー(magnetic mirror)は、直線状の磁場の両端を強い磁場で塞ぎ、そのあいだにプラズマを閉じ込める方式です。トカマクのようにドーナツ状に曲げる必要がなく、構造がまっすぐで単純なのが最大の特徴です。このページでは、なぜ両端で粒子が跳ね返るのかという直感から出発し、断熱不変量による厳密な理解、逃げ道である「ロスコーン」、不安定性の克服、そして高温超伝導コイルによる近年の再評価までを順に見ていきます。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

まっすぐな磁場の中を、荷電粒子(イオンや電子)が磁力線に巻きつくように、らせんを描いて進む様子を思い浮かべてください。磁力線が疎で磁場が弱いところでは、らせんは太く、ゆるやかです。ところが両端に近づいて磁力線がぎゅっと束ねられ、磁場が強くなると、らせんはどんどん細く、きつく巻いていきます。

ここで大事なのは、粒子の持つエネルギーの総量は変わらない、ということです。強い磁場に入ってらせんの回転(磁力線を横切る向きの運動)が激しくなるぶん、前へ進む勢い(磁力線に沿った運動)はだんだん失われていきます。坂道を登るボールが、速さを失ってやがて止まり、転がり戻ってくるのと同じです。前進する勢いを使い果たした粒子は、そこで跳ね返され、来た方向へ戻っていきます。この跳ね返る点を鏡にたとえて「ミラー点」と呼び、両端の強磁場が鏡の役割をすることから「磁気ミラー」という名前がつきました。

両端に鏡を置いたようなこの構造は「磁気瓶(magnetic bottle)」とも呼ばれます。瓶の口を強い磁場で狭くして、中の粒子を閉じ込めるイメージです。ただし、この瓶には完全にはふさげない弱点があります。もともと前進する勢いが強すぎる粒子、つまりらせんをほとんど巻かずにまっすぐ突き進むような粒子は、鏡で跳ね返される前に口をすり抜けて逃げてしまうのです。この「逃げやすい粒子の集まり」を後で「ロスコーン」という言葉で整理します。まずは、両端が鏡になっていて多くの粒子を跳ね返せるけれど、勢いよくまっすぐ進む粒子は取りこぼす、というイメージを持ってください。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

跳ね返りの正体は、断熱不変量(adiabatic invariant)と呼ばれる保存量です。磁場が空間的にゆっくり変化する(粒子の 1 回転のあいだにはほとんど変わらない)とき、磁気モーメント(magnetic moment)と呼ばれる量

μ=mv22B\mu = \frac{m v_\perp^2}{2 B}

がほぼ一定に保たれます。ここで mm は粒子の質量、vv_\perp は磁力線に垂直な速度成分、BB は磁場の強さです。μ\mu が一定ということは、BB が大きくなれば v2v_\perp^2 も同じ割合で大きくなる、という関係を意味します。

一方、磁場は仕事をしないので運動エネルギーの総量は保存され、

12mv2+12mv2=一定\frac{1}{2} m v_\parallel^2 + \frac{1}{2} m v_\perp^2 = \text{一定}

が成り立ちます。vv_\parallel は磁力線に沿った速度成分です。強磁場側へ進んで BB が増えると、μ\mu 一定から v2v_\perp^2 が増え、エネルギー保存からそのぶん v2v_\parallel^2 が減ります。v=0v_\parallel = 0 になった点がミラー点で、そこで粒子は反射されます。これが跳ね返りの数式による説明です。

粒子が反射されるかどうかは、弱磁場領域(磁場 BminB_\text{min})での速度の向き、すなわちピッチ角 θ\thetatanθ=v/v\tan\theta = v_\perp / v_\parallel)で決まります。ミラー比(mirror ratio)を

Rm=BmaxBminR_m = \frac{B_\text{max}}{B_\text{min}}

と定義すると、反射される条件は

sin2θ>1Rm\sin^2\theta > \frac{1}{R_m}

と書けます。つまりピッチ角がある臨界角より大きい(十分にらせんを巻いている)粒子だけが閉じ込められ、臨界角より小さい粒子は反射されずに端から逃げます。この逃げてしまう粒子が占める速度空間の円錐状の領域を、ロスコーン(loss cone)と呼びます。ミラー比 RmR_m が大きいほどロスコーンは細くなり、閉じ込められる粒子の割合は増えますが、RmR_m を無限に大きくすることはできないため、常に一定の逃げ道が残ります。

問題は、閉じ込められた粒子も安泰ではないことです。プラズマ中ではクーロン衝突(Coulomb collision)によって粒子の速度の向きが少しずつ変わり、いったんロスコーンの外にいた粒子もやがてロスコーンの中へ散乱されて逃げ出します。この端損失(end loss)がミラー方式の本質的な難しさで、閉じ込め時間はおおよそ衝突による散乱の時間で決まってしまいます。ミラー比を上げてロスコーンを細くしても、RmR_m の対数程度でしか改善しないため、単純なミラーだけで核融合に必要な閉じ込めを達成するのは容易ではありません。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

磁気モーメント μ\mu は、正確には周回運動の作用積分 pdl\oint p_\perp \, dl に比例する第一断熱不変量です。「断熱」とは、磁場の空間変化のスケール長が粒子のラーモア半径(Larmor radius)よりずっと大きく、かつ時間変化が回転周期よりずっと遅い、という条件を指します。この条件が破れる強い勾配のもとでは μ\mu の保存が崩れ、粒子はロスコーンの内外を飛び移ります。ミラー端の急峻な磁場勾配での μ\mu 保存の破れは、端損失を見積もるうえで無視できない補正になります。

閉じ込めの物理を語るには、まず巨視的な安定性を押さえる必要があります。単純ミラーは、プラズマの圧力が高い中心部から磁場の弱い外側へ向かって、磁力線が凹型に湾曲しています。この配位は、重い流体を軽い流体が支えるときのレイリー・テイラー不安定性(Rayleigh-Taylor instability)と同じ構造を持ち、プラズマ表面が波打って交換型不安定性(interchange instability)、別名フルート不安定性(flute instability)を起こします。これを抑えるには、プラズマが外側へ膨らむほど磁場が強くなる配位、すなわち中心で磁場が最小となる最小 B 配位(minimum-B configuration)をつくればよい、というのが安定性理論の要請です。ベースボールコイル(baseball coil)やヨーイン・ヤン(陰陽)コイル(yin-yang coil)は、この最小 B を実現するために磁場を三次元的にねじった巻線です。

端損失そのものを減らす発想がタンデムミラー(tandem mirror)です。1976 年に Dimov と Fowler・Logan によって独立に提案されたこの方式は、中央の長いセル(中央セル)の両端に、より強く閉じ込める小さなプラグセルを置きます。プラグセルにイオンをためて電子より高い密度にすると、電荷分離によって正の静電ポテンシャルの山ができ、この電位障壁が中央セルのイオンを静電的に押し戻します。イオンの閉じ込めを磁気ミラーだけでなく静電ポテンシャルにも担わせるのが要点です。さらにサーマルバリア(thermal barrier)の概念では、局所的に電子密度を下げて電位のくぼみをつくり、プラグ部の電子を中央セルの電子から熱的に切り離すことで、少ないパワーで高い電位障壁を維持できるようにします。

ここで、ミラーと同じ直線系の親戚として磁場反転配位(field-reversed configuration, FRC)にも触れておきます。FRC は、プラズマ自身が流す電流が外部磁場を打ち消して内部で反転させ、閉じた磁力線からなるコンパクトトーラスを直線容器の中につくる配位です。外部コイルだけに頼るミラーと違い、閉じた磁力線を自ら生成するため端損失の構造が異なり、ベータ値(プラズマ圧力と磁気圧の比)が 1 に近い超高ベータを原理的に許します。ミラーと FRC は、直線的な開放端系という土俵を共有しつつ、閉じ込めを外部磁場に頼るか自己組織化した閉磁場に頼るかで対照をなしており、近年の民間核融合ではこの中間・融合的な発想も探られています。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

米国では 1986 年に大型装置 MFTF-B が完成直後に予算縮小で運転されずに中止となり、磁気ミラー研究は長く停滞しました。しかし 2010 年代以降、いくつかの技術的・学術的進展を背景に再評価(mirror revival)が進んでいます。

再評価を後押しした大きな要因が、高温超伝導(high-temperature superconductor, HTS)を用いた高磁場コイルです。希土類系の REBCO テープ線材によって、これまで難しかった強い磁場を小型のコイルで生成できるようになりつつあり、ミラー比 RmR_m を大きくとってロスコーンを細くできる見通しが立ってきました。この流れの中で、ウィスコンシン大学を中心とする WHAM(Wisconsin HTS Axisymmetric Mirror)が高磁場・軸対称ミラーの実証装置として建設・運転され、そこから派生した民間企業 Realta Fusion が発電応用を目指しています。軸対称配位はコイル構造が単純で工学的に有利ですが、そのままでは交換型不安定性に弱いため、渦電流を制御する境界条件や、回転や運動論的効果による安定化(kinetic stabilization)の理論・実験が活発に研究されています。

ロシアの Budker 研究所の GDT(Gas Dynamic Trap)は、軸対称ミラーでプラズマベータ値 60% 級を達成し、高ベータ軸対称ミラーが安定に成立しうることを示した重要な実験です。GDT の系譜は、次世代装置の設計や、中性子源としての応用検討にもつながっています。日本では筑波大学の GAMMA 10/PDX がタンデムミラーの代表的装置として長年稼働し、電位閉じ込めの物理、開放端におけるプラズマと壁・ダイバータの相互作用(plasma-material interaction)の研究拠点となっています。

現在の主な研究テーマとしては、次のようなキーワードが論文で頻出します。端損失をいかに減らすかに関わる expander や外側の膨張領域での電位形成、ロスコーン分布に固有の微視的不安定性である drift cyclotron loss cone(DCLC)不安定性の抑制、軸対称配位の巨視的安定化を担う vortex confinement や sheared rotation、そして高ベータ・高磁場運転での輸送とベータ限界です。ミラーは開放端ゆえにダイバータ不要で熱・粒子を素直に排気でき、定常運転や直接エネルギー変換(direct energy conversion)と相性がよいこと、核融合中性子源や核融合・核分裂ハイブリッドの駆動源としての応用も、再評価を支える論拠として議論されています。断定はできませんが、HTS 高磁場コイルという新しい道具立てのもとで、古い方式が新しい設計空間で見直されている、というのが現在の状況です。

問 1. なぜ粒子は強磁場領域で跳ね返されるのか、エネルギーのやりとりに着目して正しく説明しているものはどれですか。
問 2. ミラー比 Rm を大きくすると閉じ込めはどう変わりますか。
問 3. 単純ミラーで端損失が本質的に避けられないのはなぜですか。
問 4. 単純ミラーが交換型(フルート)不安定性を起こしやすい理由と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれですか。
問 5. タンデムミラーはどのように端損失を抑えますか。
  • 断熱不変量とらせん運動の基礎は 荷電粒子の運動 を参照してください。
  • ミラー、トカマク、ステラレータなど磁場配位全体の中での位置付けは 磁場配位 で扱っています。
  • WHAM や FRC を追う民間企業の動向は 民間核融合ベンチャー を参照してください。