トカマク方式
トカマクは、ドーナツ形(トーラス)の真空容器の中にプラズマを磁場で閉じ込める装置で、現在最も研究が進んでいる磁場閉じ込め核融合の方式です。名称はロシア語の「磁気コイル付きトロイダル容器」に由来します。このページでは、なぜドーナツ形なのかという直感から出発して、磁場を作る仕組み、安定に運転するための条件、性能を左右する運転限界、そして高磁場トカマクや AI 制御といった最前線の研究まで、順を追って理解できるようにします。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”プラズマは、原子核と電子がばらばらになった超高温のガスです。核融合を起こすには、この気体を約 1 億度まで熱く保ったまま、どこにも触れさせずに閉じ込める必要があります。壁に触れれば一瞬で冷えてしまうからです。
ここで役立つのが磁石です。プラズマの中の粒子は電気を帯びているので、磁力線に巻き付くように運動します。磁力線を「見えないレール」だと思ってください。粒子はレールに沿ってくるくる回りながら進み、レールを横切って外へ逃げるのは苦手です。だからレールをうまく配置すれば、壁に触れさせずにプラズマを浮かせておけます。
では、レールをどう配置すればよいでしょうか。まっすぐな筒の中に磁力線を通すと、粒子は筒の両端から逃げてしまいます。端をなくすには、筒をぐるりと曲げて輪にすればよい。これがドーナツ形を選ぶ理由です。端がないので、粒子はレールに沿って永遠に回り続けられます。
ところが、ただ輪にしただけでは閉じ込めがうまくいきません。ドーナツの内側と外側では磁場の強さが違うため、プラズマがじわじわと外側へ押し出されてしまうのです。これを防ぐために、トカマクは磁力線を「らせん」にひねります。ドーナツの大きな輪を回りながら、同時に断面の小さな輪もぐるぐる回るような、ねじれた磁力線です。このひねりが、内側と外側の押し出しを打ち消し合ってくれます。
トカマクの巧妙な点は、このひねりを作るために、プラズマ自身に電流を流すところにあります。プラズマは電気を通すので、大きな電流を流すとその周りに磁場ができ、それがちょうどらせんのひねりを生みます。電流を起こす仕掛けは、身近な変圧器(トランス)と同じ原理です。ドーナツの中心にコイルを置き、その電流を変化させると、プラズマがコイルの二次側になって電流が誘導されます。プラズマそのものを電気回路の一部として使うわけです。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”トカマクの磁場は 2 種類の成分を重ね合わせて作ります。ひとつはトロイダル磁場(toroidal field)で、ドーナツを取り囲むように並べた D 字形の TF コイル(toroidal field coil)が作り、大きな輪の方向に沿った磁場です。もうひとつはポロイダル磁場(poloidal field)で、プラズマ自身に流れる電流が作り、断面の小さな輪を回る磁場です。
このプラズマ電流を起こすのが中心ソレノイド(central solenoid, CS コイル)です。ドーナツの中心軸に置いたコイルの電流を時間変化させると、変圧器と同じ電磁誘導でプラズマにトロイダル方向の電流 が誘導されます。誘導起電力は磁束の時間変化 で決まるので、原理的には磁束を増やし続けられる間しか電流を駆動できません。これがトカマクがもともとパルス運転になりやすい理由で、後述する定常運転の課題につながります。
2 つの磁場を合成すると、磁力線はトーラス面上をらせん状に周回します。このらせんの「ねじれ具合」を表すのが安全係数(safety factor) です。定義は、磁力線がポロイダル方向に 1 周する間にトロイダル方向に何周するかを表す量で、簡単化した円形断面では次のように書けます。
ここで は小半径(断面の半径)、 は大半径(ドーナツ中心からの距離)、 はトロイダル磁場、 はポロイダル磁場です。式を読み下すと、トロイダル磁場が強くポロイダル磁場が弱いほど は大きく(ねじれが緩く)なり、逆にプラズマ電流を増やしてポロイダル磁場を強めるほど は小さく(ねじれがきつく)なります。
が重要なのは、プラズマの安定性を決めるからです。 が小さすぎると、プラズマ電流が作る磁場のエネルギーが解放されてプラズマ柱がねじれたり折れ曲がったりする不安定(キンク不安定性, kink instability)が起きます。経験的に、プラズマ全体が安定であるためにはエッジ(最外殻)の安全係数 を 3 以上に保つのが目安とされ、 が 2 を切ると危険とされます。TF コイルの本数やプラズマ電流の大きさは、この が安全な値になるように設計されます。
加熱については、プラズマ電流によるオーミック加熱(ジュール熱)だけでは核融合温度に届きません。温度が上がるとプラズマの電気抵抗が下がり、発熱が効かなくなるためです。そこで補助加熱を使います。高エネルギーの中性原子を撃ち込む中性粒子ビーム入射(neutral beam injection, NBI)、粒子の共鳴周波数に合わせた電磁波を注入するイオンサイクロトロン加熱(ICRH)と電子サイクロトロン加熱(ECRH)が代表的です。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”トカマクの平衡と安定性は、電磁流体力学(magnetohydrodynamics, MHD)の枠組みで記述されます。プラズマの圧力勾配と磁気力の釣り合いは、力の釣り合い式 と、軸対称平衡を記述するグラッド・シャフラノフ方程式(Grad-Shafranov equation)にまとめられます。詳しくは MHD 平衡と安定性 を参照してください。
性能の目安となるのがベータ値 で、プラズマ圧力を磁気圧で割った比です。
は「与えた磁場をどれだけ効率よくプラズマ圧力に変換できているか」を表し、経済的な核融合炉ほど高い が望まれます。しかし を上げすぎると圧力駆動型の不安定性が発生します。この限界はトロヨンベータ限界(Troyon beta limit)として知られ、規格化ベータ を使って
と定義したとき、 がおよそ 3 から 4 の値を超えると不安定になるという経験則にまとめられています( は小半径、単位系に注意が必要です)。
密度にも上限があり、グリーンワルド密度限界(Greenwald density limit)と呼ばれます。線平均密度 が
で与えられる を超えると、放射損失の増大などによってプラズマがディスラプションに至りやすくなります。式を読み下すと、プラズマ電流を増やし断面を小さくするほど、許される密度の上限が上がるという関係です。これらキンク限界、ベータ限界、密度限界は、いずれもプラズマの運転できる領域(運転窓)の境界を決めます。
H モード(high-confinement mode, 高閉じ込めモード)は 1982 年に ASDEX 装置で発見された運転状態です。補助加熱のパワーがある閾値を超えると、プラズマ周辺部に急峻な圧力勾配をもつ輸送障壁(ペデスタル)が自発的に形成され、閉じ込め性能が L モード(low-confinement mode)の約 2 倍に跳ね上がります。ITER をはじめとする次世代装置は、この H モードを標準の運転シナリオとして設計されています。ただし H モードでは周辺部の圧力勾配が周期的に崩れる ELM(edge-localized mode, 周辺局在化モード)が発生し、大型の ELM はダイバータに瞬間的な熱負荷を与えるため、共鳴磁場摂動(resonant magnetic perturbation, RMP)などによる制御が研究されています。各種不安定性の分類は プラズマ不安定性 にまとめています。
運転限界を超えたときに起きる最も深刻な現象がディスラプション(disruption)です。プラズマ電流が短時間で失われる現象で、まず熱的クエンチで蓄えられた熱エネルギーがミリ秒程度で壁へ放出され、続く電流クエンチで大きな電磁力が構造物に作用します。さらに厄介なのが逃走電子(runaway electron)です。電流クエンチ中に生じる強い誘導電界のもとでは、一部の電子が衝突による摩擦よりも加速のほうが勝ってしまい、光速に近いエネルギーまで際限なく加速されます。この高エネルギー電子ビームが局所的に壁へ当たると深刻な損傷を与えるため、緩和技術としてシャッタードペレットインジェクション(shattered pellet injection, SPI)による不純物の大量注入などが研究されています。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”定常運転(steady-state operation)の実現は、トカマクを実用炉にするための中心課題です。中心ソレノイドによる誘導電流駆動は磁束を使い切るとパルスが終わってしまうため、非誘導電流駆動(non-inductive current drive)が必要になります。外部から電流を駆動する方法としては、低域混成波電流駆動(lower hybrid current drive, LHCD)、電子サイクロトロン電流駆動(electron cyclotron current drive, ECCD)、NBI による駆動があります。加えて、圧力勾配そのものが電流を生むブートストラップ電流(bootstrap current)を最大限に活用し、外部投入電力を減らす先進運転シナリオ(advanced tokamak scenario)が精力的に研究されています。
球状トカマク(spherical tokamak)は、アスペクト比(大半径と小半径の比)をおよそ 1.2 から 2 まで小さくし、プラズマを球に近い形にした配位です。同じ磁場でも高い を得やすく、装置をコンパクトにできる利点があります。英国の STEP 計画などが発電実証を目指していますが、中心柱のスペースが限られ TF コイルや中心ソレノイドの配置が難しいこと、中性子照射への耐性など、固有の工学課題が研究の対象です。
高磁場トカマク(high-field tokamak)は、トロイダル磁場を強めることで装置を小型化する路線です。核融合出力は磁場の高いべき乗で効くため、磁場を上げれば同じ性能をより小さな装置で得られます。この鍵を握るのが希土類バリウム銅酸化物(REBCO)などの高温超伝導体(high-temperature superconductor, HTS)で、従来の低温超伝導体より高い磁場を発生できます。MIT と Commonwealth Fusion Systems(CFS)が開発する SPARC は、この HTS 磁石で高い磁場を実現し が 1 を大きく超える燃焼プラズマの実証を目指す代表例です(詳細は SPARC を参照)。世界最大の ITER が拓く物理と、高磁場路線がめざす小型化は ITER と合わせて読むと対比が見えてきます。また、超伝導トカマクの長パルス運転技術は JT-60SA のような装置で蓄積が進んでいます。
制御の分野では、AI プラズマ制御(AI-based plasma control)が急速に発展しています。プラズマは多数の変数が絡む非線形系で、形状や不安定性を人手で調整するのは困難です。強化学習(reinforcement learning)で磁場コイルの電流を自動制御し、狙った形状のプラズマを維持する研究や、機械学習でディスラプションを事前に予測して回避する研究が報告されています。実時間でプラズマ状態を推定し、破壊的な事象を未然に防ぐ制御手法は、燃焼プラズマ時代の重要な研究テーマです。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”関連トピック
Section titled “関連トピック”- MHD 平衡と安定性 - トカマク平衡を記述する理論的枠組み
- プラズマ不安定性 - キンク、ELM など各種不安定性の分類
- ITER - 世界最大のトカマクと燃焼プラズマ実証
- JT-60SA - 超伝導トカマクによる長パルス運転研究
- SPARC - 高温超伝導体を使う高磁場コンパクトトカマク