コンテンツにスキップ

燃料循環系

核融合炉は燃料を一度きりで使い捨てるわけではありません。プラズマに入れた燃料のうち実際に燃えるのはほんの数パーセントで、大部分は燃え残りとして出てきます。この燃え残りを回収し、きれいにして、もう一度入れる。この循環の仕組みが燃料循環系(fuel cycle system)です。このページでは、燃料を回して使うという直感から、トリチウムの調達と自給の成立性という研究最前線まで、順を追って解説します。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

核融合炉の燃料は、水素の仲間である重水素(deuterium、記号 D)とトリチウム(tritium、記号 T)の 2 種類です。この 2 つがぶつかって融合すると、大きなエネルギーとヘリウム、そして中性子が生まれます。これが D-T 反応です。

ここで大事なのは、入れた燃料がぜんぶ燃えるわけではないということです。イメージとしては、たき火に薪をくべても、一度で全部が灰になるわけではなく、燃え残りの薪が出てくるのに似ています。核融合炉の場合、プラズマの中で実際に反応する燃料はたった数パーセントで、残りの 9 割以上は燃えずに炉の外へ出ていきます。

もし燃え残りを捨てていたら、あまりにもったいないですし、そもそも燃料が足りません。そこで、出てきた排気ガスから燃料だけをより分けて、また炉に戻します。燃料を「入れる、燃やす、回収する、また入れる」とぐるぐる回して使うわけです。これが燃料サイクルという言葉の意味です。

もう 1 つの直感的な問題は、トリチウムがこの世にほとんど存在しないことです。重水素は海水の中にたっぷり含まれていて、海水をくめばいくらでも取り出せます。ところがトリチウムは放射性で、約 12.3 年で半分に減っていくため、大昔に自然にできた分はとっくに消えてしまいました。地球全体でも数キログラムしかありません。つまり、燃料の片方は事実上「買ってこられない」のです。

ではどうするか。核融合炉では、反応で飛び出す中性子を使って、炉の壁(ブランケット)の中でトリチウムを自分で作ります。燃やしながら同時に作る、いわば「燃料を自給自足する」発想です。この自給がうまく回るかどうかが、核融合炉が実用になるかの大きな鍵になります。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

D-T 反応は次のように書けます。

D+T4He(3.5 MeV)+n(14.1 MeV)\mathrm{D} + \mathrm{T} \rightarrow {}^{4}\mathrm{He}\,(3.5\ \mathrm{MeV}) + n\,(14.1\ \mathrm{MeV})

1 回の反応で合計 17.6 MeV17.6\ \mathrm{MeV} のエネルギーが出ます。このうち 3.5 MeV3.5\ \mathrm{MeV} をヘリウム(アルファ粒子)が、14.1 MeV14.1\ \mathrm{MeV} を中性子が持ち去ります。エネルギーの規模を実感するために燃料消費量を見積もると、電気出力ではなく核融合出力が 1 GW1\ \mathrm{GW} の炉で、消費されるトリチウムはおよそ 56 kg/年 です。地球上の在庫が数キログラムしかないことを思えば、いかに炉内生産が必須かがわかります。

燃料循環系は、大きく内部サイクルと外部サイクルに分けて考えます。内部サイクルは、燃料を入れて、燃え残りを排気し、精製して、また入れるまでの高速の経路で、滞留時間は数分から数十分です。外部サイクルは、ブランケットで生まれたトリチウムを取り出して精製し、貯蔵に回す経路で、こちらは数時間から数日かかります。

燃料をプラズマに入れる方法(燃料入射)には主に 2 つあります。

ガスパフ(gas puffing)は、真空容器の壁ぎわから燃料ガスをそのまま吹き込む方法です。仕組みが単純で応答も速いのですが、ガスはプラズマの外側でほとんど電離してしまい、中心まで届きにくいのが弱点です。供給効率はおおむね数十パーセントにとどまります。

ペレット入射(pellet injection)は、燃料を冷やして直径数ミリの氷の粒(ペレット)に固め、これを秒速数百メートルから 1 km 以上で撃ち込む方法です。固体の粒は表面から少しずつ溶けながら奥まで飛ぶので、プラズマの中心近くまで燃料を届けられます。供給効率が高く、燃料をどこに置くかを制御しやすいのが利点です。

燃焼率(burn-up fraction)は、入れた燃料に対して実際に反応した割合です。現在の設計では数パーセント程度と見込まれています。裏を返せば、入れた燃料の大半は燃えずに排気されるので、これを回収して再利用する処理量が、燃料循環系の規模を決めることになります。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

排気された燃え残りには、燃料の D と T のほかに、反応で生じたヘリウム(灰、ash)や、壁から出る不純物が混ざっています。ここから燃料だけを取り出して、しかも同位体ごとに分ける必要があります。

まず粗く水素同位体をより分ける段階では、パラジウム合金の膜に水素だけを透過させる方法などが使われ、高い純度の水素同位体流を得ます。問題はその先で、化学的にほぼ同じふるまいをする D と T、さらに軽い水素(protium、H)を互いに分離しなければなりません。ここで質量差というわずかな違いを使います。

代表的な手法が深冷蒸留(cryogenic distillation)です。水素同位体は沸点がごくわずかに違うため、液体水素の温度域(およそ 20 K20\ \mathrm{K} 前後)まで冷やして蒸留塔にかけると、軽い成分ほど蒸発しやすく、重い成分ほど液にとどまります。この差を蒸留塔の中で何段も積み重ねることで、H、D、T を分離します。差が小さいぶん多くの段数と時間が必要で、装置は大きく、内部に保持されるトリチウム量(インベントリ)も無視できません。小規模で応答よく分離したい場合には、温度スイング吸着を使う TCAP のような別方式も併用されます。

外部サイクルの中核が、これらをまとめて扱うトリチウムプラント(tritium plant)です。排気の回収、不純物の除去、同位体分離、トリチウムの貯蔵、そして水などに取り込まれてしまったトリチウムの回収(water detritiation)までを担います。貯蔵には金属水素化物が使われ、たとえば ZrCo などの合金に水素同位体を吸わせて固定し、加熱すると放出させて取り出します。気体のまま高圧でためるより安全で扱いやすいためです。ただしトリチウム自身がベータ崩壊し、年に約 5.5 %5.5\ \% がヘリウム 3 に変わっていくので、貯蔵材の性能低下や崩壊生成物の管理が課題になります。

ITER の燃料サイクルは、この一連の処理を実機規模で成立させる最初の大きな試みです。ガスパフとペレット入射で燃料を供給し、クライオポンプ(極低温面にガスを凍りつかせて引くポンプ)で排気し、トリチウムプラントで分離・精製して戻します。ヘリウムは沸点が 4.2 K4.2\ \mathrm{K} と極端に低く凍りつかせにくいため、活性炭などの吸着材を組み合わせて排気します。安全上の要として、真空容器内に存在するトリチウム量には上限が設けられています。トリチウムがどれだけ壁に取り込まれ(retention)、どれだけ回収できるかは、循環全体の成立性に直結する量として詳しく調べられています。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

最大の研究テーマは、トリチウムの自給が本当に成立するかです。核融合炉はトリチウムを外から買えないので、消費した以上を炉内で作り続けなければ運転が止まります。この収支を表すのがトリチウム増殖比(tritium breeding ratio、TBR)で、消費 1 に対して炉内で生産される量の比です。原理的には TBR>1\mathrm{TBR} > 1 が必要ですが、実際には燃料循環系での損失、崩壊、貯蔵、新しい炉を立ち上げるための余剰分まで含めて、11 をいくらか上回る実効値が求められます。

TBR を左右するのは、中性子 1 個から確実にトリチウム 1 個以上を作れるかという中性子経済です。ベリリウムや鉛による中性子増倍、リチウム 6 の濃縮、ブランケットの被覆率、構造材や配管による中性子の食われぐあいなどが効いてきます。ここは燃料サイクルとブランケットが分かちがたく結びつく領域です。増殖の物理は ブランケット のページで詳しく扱います。

もう 1 つの焦点が初期装荷トリチウム(start-up inventory)です。炉を立ち上げてトリチウムを自前で回し始めるには、最初にまとまった量のトリチウムを外から用意しておく必要があります。現在の主な供給源は重水を減速材に使う CANDU 型原子炉からの回収で、その総量は限られています。そのため、初期装荷をどれだけ小さくできるか、トリチウム倍増時間(doubling time、余剰トリチウムで次の炉を起動できるまでの時間)をどれだけ短くできるかが、複数炉の展開を左右する問題として研究されています。これらは燃料サイクル全体のインベントリをできるだけ絞る設計と一体で議論されます。

燃焼率が低いことも、循環にそのまま効いてきます。燃焼率が数パーセントということは、消費量の何十倍もの燃料を毎日回し続ける必要があり、その分だけ系内に保持されるトリチウム量が増え、損失や被ばく管理の負担も増えます。燃焼率を上げる、あるいは循環系のインベントリと処理時間を減らす工夫が、安全性と経済性の両面から追求されています。トリチウムの安全な取り扱いと閉じ込めについては トリチウム管理 を、D-T 反応そのものの物理は 核融合反応 を参照してください。

これらの課題を統合して検証する場が、ITER に続く原型炉(DEMO)です。連続運転、実機規模の処理量、TBR>1\mathrm{TBR} > 1 の実証、そして小さな初期装荷での自給の成立を同時に満たせるかが、核融合を発電として成り立たせられるかどうかの分かれ目になります。

問 1. 核融合炉で、入れた燃料をぐるぐる回して使うのはなぜですか。
問 2. 重水素とトリチウムでは調達のしやすさが大きく違います。その理由として正しいものはどれですか。
問 3. ガスパフとペレット入射を、供給効率とプラズマ中心への到達しやすさで比べたとき正しいのはどれですか。
問 4. 深冷蒸留が水素同位体の分離に使えるのはなぜですか。
問 5. トリチウム増殖比(TBR)が 1 をわずかに上回るだけでは不十分とされるのはなぜですか。
  • ブランケット: 中性子からトリチウムを生み出す増殖の仕組みと、TBR を決める中性子経済を扱います。
  • トリチウム管理: トリチウムの閉じ込め、被ばく管理、施設としての安全対策を扱います。
  • 核融合反応: D-T 反応をはじめとする核融合反応の物理とエネルギー収支を扱います。