ステラレータ/ヘリカル方式
ステラレータ(stellarator)は、外部に置いたコイルだけでプラズマを閉じ込める磁場閉じ込め方式です。トカマクがプラズマ自身に流す電流を使うのに対し、ステラレータは電流を必要としません。そのぶんコイルの形は複雑になりますが、電流のディスラプション(disruption)が原理的に起きず、定常運転に向くという大きな利点があります。このページでは、その発想の核心から、ヘリカル装置や W7-X、そして磁場を最適化する最新の研究までを順を追って解説します。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”プラズマをドーナツ(トーラス)の形に閉じ込めようとすると、ひとつ困ったことが起きます。ドーナツの内側と外側では磁場の強さが違い、この違いのせいで、プラスの粒子は上へ、マイナスの粒子は下へと、少しずつ横滑りしてしまうのです。この横滑りをドリフト(drift)と呼びます。放っておくと粒子は壁にぶつかって逃げてしまいます。
これを防ぐには、磁力線をまっすぐドーナツを回すのではなく、らせん状にねじってやればよいことが知られています。磁力線がドーナツを 1 周する間に、断面の上から下へ、下から上へとぐるりと回るようにするのです。そうすると、上へ滑ろうとした粒子はやがて下側の道に乗り、下へ滑ろうとした粒子は上側の道に乗るので、滑りが打ち消し合ってプラズマがまとまります。この「磁力線のねじれ具合」を回転変換(rotational transform)と呼びます。
では、どうやって磁力線をねじるのでしょうか。トカマク(tokamak)はプラズマの中に大きな電流を流し、その電流が作る磁場でねじりを生みます。一方ステラレータは、外側に置くコイルの形そのものを工夫して、はじめからねじれた磁場を作り出します。たとえるなら、トカマクは「中の人にコマを回してもらう」方式、ステラレータは「外側の道路自体をねじっておく」方式です。
外側だけで完結するこの発想には、地味に見えて決定的な長所があります。プラズマに電流を流し続ける必要がないので、止まることなくずっと運転できます(定常運転)。しかもトカマクの弱点である、電流が突然消えてプラズマが一気に崩れる事故(ディスラプション)が、そもそも流す電流がないので起きません。恒星(stellar)を地上に創る装置、という願いを込めて名づけられたのがこのステラレータです。1951 年にライマン・スピッツァー(Lyman Spitzer)が考案しました。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”回転変換 (イオタ)は、磁力線がトロイダル方向(ドーナツの大きな輪の方向)に 1 周する間に、ポロイダル方向(断面の輪の方向)に回る角度で定義されます。1 周あたりの回転数として表すことも多く、その場合は と書きます。この量が、粒子を閉じ込める力そのものを決めます。
トカマクとステラレータの本質的な違いは、この をどこから得るかにあります。トカマクではプラズマ電流 が作るポロイダル磁場が回転変換を生みます。つまり回転変換はプラズマの状態に依存し、電流が消えれば閉じ込めも消えます。ステラレータでは を外部コイルの幾何学だけで作るため、プラズマがまだ立ち上がっていなくても真空中に閉じた磁気面が存在します。この「真空磁気面が最初から完成している」点が、立ち上げのしやすさと定常性を支えます。
ステラレータの安全係数 は回転変換の逆数 で、トカマクと同じく有理数付近で磁気島(magnetic island)ができやすいという事情も共通します。ただしトカマクと違って が半径方向にどう変化するか(磁気シア)までコイル設計で仕込めるため、設計の自由度が桁違いに大きいのが特徴です。
代表的な配位を整理します。
- ヘリオトロン/トルサトロン(heliotron/torsatron): らせん状に巻いた連続コイルで回転変換を作ります。日本の大型ヘリカル装置(LHD)が代表例です。
- モジュラーステラレータ(modular stellarator): 個別に成形した三次元コイルを並べて磁場を作ります。ドイツの Wendelstein 7-X(W7-X)が代表例です。
- ヘリアック(heliac): 磁気軸自体がらせん状にねじれた配位で、スペインの TJ-II が代表例です。
外部コイルだけで三次元的にねじれた磁場を作るため、コイル形状は必然的に複雑になります。この複雑さがステラレータの技術的難しさであり、同時に「磁場を自由に設計できる」という強みの源でもあります。閉じ込め性能の見通しは、輸送(transport)の章で扱うスケーリング則の考え方と合わせて理解すると立体的になります。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”外部コイルだけで磁場を作れるという自由度は、裏を返せば「どんな磁場を狙って設計すべきか」という問いを生みます。素朴に作った三次元磁場には深刻な弱点があるからです。トロイダル磁場が強い場所と弱い場所ができると、そこに捕捉粒子(trapped particle)が生まれます。磁場の弱い谷に捕らえられて往復運動する粒子です。トカマクのような軸対称系では、この捕捉粒子の軌道は磁気面の近くに閉じて留まります。ところが一般の三次元ステラレータでは軌道が閉じず、粒子が磁気面から系統的にずれていきます。これが新古典輸送(neoclassical transport)を悪化させ、とくに高温・低衝突領域で深刻になります。
この問題を解く鍵が、1980 年代以降に整理された準対称性(quasi-symmetry)の概念です。粒子の閉じ込めを決めているのは磁場ベクトルの向きそのものではなく、荷電粒子が感じる磁場強度 の分布であることが、ボルツマン方程式の断熱不変量の議論からわかります。したがって、実空間の形は三次元でも、磁場強度 が適切な座標(ブーザー座標)の中で対称に見えるように設計できれば、軸対称系と同等の良い粒子閉じ込めが取り戻せます。この「強度の対称性」が準対称性です。
準対称性には方向によっていくつかの種類があります。
- 準軸対称(quasi-axisymmetry, QA): がトロイダル方向にほぼ一様。トカマクに近い良好な閉じ込めを狙います。
- 準ヘリカル対称(quasi-helical symmetry, QH): がらせん方向に対称。米国の HSX が世界で初めて実現し、輸送改善を実証しました。
- 準等磁場(quasi-isodynamic, QI): 厳密な準対称ではありませんが、捕捉粒子の平均的なドリフトが磁気面内で閉じるように を設計します。W7-X はこの QI 配位を狙って設計されました。
現代のステラレータ設計は、こうした の条件を目標関数に組み込み、MHD 平衡(磁気流体力学的なつり合い)の安定性や、有限ベータ(プラズマ圧力と磁気圧の比)での磁気面の保持、コイルの実現可能性までを同時に満たすコイル形状を、数値最適化で逆算して求めます。W7-X は最適化ステラレータの最初の大規模実証機で、大半径およそ 5.5 m、磁場強度およそ 3 T の超伝導装置として 2015 年に運転を開始しました。一方 LHD は世界最大級のヘリカル装置で、大半径およそ 3.9 m、磁場強度およそ 3 T。1998 年の運転開始以来、長時間の連続放電や重水素実験で豊富なデータを積み上げてきました。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”ステラレータ研究はいま、最適化理論の成熟と計算資源の増大を背景に、活発に動いている分野です。主要なトピックを事実の範囲で紹介します。
ひとつは、準対称性を厳密に近づける新しい配位の探索です。理論的には完全な準対称を体積全体で成り立たせることは難しいと考えられており、どこまで近づけるか、どの領域で妥協するかが議論されています(precise quasi-symmetry)。ステラレータ最適化のオープンソースコード(たとえば STELLOPT や SIMSOPT)を使い、コイルとプラズマ形状を同時に最適化する研究が進んでいます。
コイル工学も最前線です。三次元コイルは高い製造精度が求められ、W7-X では設計値に対して数 mm 級の精度管理が要求されました。近年は高温超伝導体(high-temperature superconductor, HTS)の進歩により、より強い磁場でよりコンパクトな装置が作れる可能性が検討されています。また、複雑なコイルをどう組み立て・保守するかという、コイルの製造性・接近性を最適化の目的関数そのものに含める試みも研究されています。
炉工学の観点では、三次元的にねじれた壁形状に適合するブランケット(中性子を受け止め燃料トリチウムを生む機構)やダイバータ(排熱・排ガス機構)の設計が課題です。ステラレータ特有のアイランドダイバータ(island divertor)や、磁力線が発散する領域を使うダイバータ概念が研究されています。
さらに近年は、民間企業が最適化ステラレータの商用炉を目指す動きが出てきています。数値最適化と HTS を組み合わせ、従来より小型で早期の実用化を狙う設計検討が進められています。ステラレータが「電流に頼らない定常炉」という原理的な強みを、工学とコストの現実に落とし込めるかが、これからの焦点です。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”関連トピック
Section titled “関連トピック”- 磁場閉じ込めの考え方 - 回転変換や磁気面など、共通する土台
- トカマク方式 - プラズマ電流で回転変換を作る対比方式
- 大型ヘリカル装置(LHD) - 世界最大級のヘリカル装置
- 輸送 - 新古典輸送や閉じ込め性能の理論的背景