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SPARC

SPARC は、アメリカの民間企業 Commonwealth Fusion Systems(CFS)が、マサチューセッツ工科大学(MIT)のプラズマ科学核融合センターと共同で建設しているトカマク型の核融合実験装置です。国が主導する巨大プロジェクトである ITER とは対照的に、SPARC は「小さく、速く、民間の資金で」核融合を実証しようとしています。このページでは、なぜ小型でも高い性能をねらえるのか、その鍵となる高温超伝導コイルとは何か、そして民間主導の開発モデルが持つ意味を順に見ていきます。

SPARC をひとことで(高校レベル)

Section titled “SPARC をひとことで(高校レベル)”

トカマクは、ドーナツ状の容器の中に約 1 億度の超高温プラズマ(原子核と電子がばらばらに飛び交う気体)を閉じ込めて、核融合を起こす装置です。プラズマは強力な磁石で作った「見えないかご」に閉じ込めます。このかごが強いほど、熱いプラズマをぎゅっと押さえ込めます。

これまでの大型装置は、磁石がそれほど強くできなかったので、その分だけ装置全体を大きくして性能をかせいでいました。ITER が直径 30 メートル近い巨大な建物になるのはこのためです。

SPARC の発想はまったく逆です。磁石をうんと強くできれば、装置は小さいままで済むはずだ、と考えました。その強い磁石を実現したのが、比較的高い温度でも電気抵抗がゼロになる新しい材料、高温超伝導体(high-temperature superconductor)です。SPARC は ITER の 70 分の 1 ほどの体積しかありませんが、同じくらいの核融合出力をねらっています。「軽自動車のサイズで、大型トラック並みの仕事をする」ようなものだと考えてください。

SPARC という名前は、開発チームの合言葉である Soonest / Smallest Private-funded Affordable Robust Compact(できるだけ早く、小さく、民間資金で、手頃で、頑丈で、コンパクトに)の頭文字から来ています。

高磁場でなぜ小型化できるのか(学部レベル)

Section titled “高磁場でなぜ小型化できるのか(学部レベル)”

SPARC の核心は「核融合の出力は磁場の強さの 4 乗に比例する」というスケーリングにあります。この直感をつかむのが、このページで一番大切なところです。

トカマクのプラズマがどれだけ高い圧力に耐えられるかは、磁場の圧力との比であるベータ値 β\beta で決まります。

β=pB2/(2μ0)\beta = \frac{p}{B^2 / (2\mu_0)}

ここで pp はプラズマの圧力、BB は磁場の強さ、μ0\mu_0 は真空の透磁率です。この式は「磁場が生む圧力のうち、どれだけをプラズマの圧力として使えているか」を表します。分母に B2B^2 があることに注目してください。装置ごとに達成できるベータ値 β\beta にはおよそ上限があるので、それを一定とみなすと、プラズマ圧力は pβB2p \propto \beta B^2、つまり磁場の 2 乗で増やせます。

一方、核融合による出力密度(単位体積あたりの発熱量)は、プラズマ圧力のおよそ 2 乗に比例します。燃料の密度と温度の積が圧力なので、反応の起こりやすさが圧力の 2 乗で効いてくるためです。

Pfus/Vp2(βB2)2B4P_{\text{fus}} / V \propto p^2 \propto (\beta B^2)^2 \propto B^4

この 2 つを組み合わせると、出力密度は磁場の 4 乗に比例します。磁場を 2 倍にすれば 24=162^4 = 16 倍、出力密度が跳ね上がる計算です。だからこそ、磁場を強くできれば装置を大きくしなくても十分な出力が得られます。これが高磁場コンパクトトカマクの設計思想の土台です。

SPARC の主要な設計値を、ITER と並べて見てみます。

パラメータSPARCITER
プラズマ大半径約 1.85 m6.2 m
プラズマ小半径約 0.57 m2.0 m
中心磁場約 12 T5.3 T
プラズマ電流約 8.7 MA15 MA
核融合出力数十 MW 級500 MW
パルス時間約 10 秒数百秒

SPARC の中心磁場は約 12 テスラ(T)で、ITER の 5.3 T の 2 倍以上です。磁場が 2 倍強ければ出力密度は 10 倍以上になるので、装置の体積が ITER の 70 分の 1 ほどでも、核融合出力では十分に競合できます。パルス時間が約 10 秒と短いのは、SPARC が定常運転ではなく、まず燃焼プラズマの物理を確かめる実験装置として設計されているためです。

高温超伝導コイルという鍵(大学院レベル)

Section titled “高温超伝導コイルという鍵(大学院レベル)”

磁場を 2 倍にする、と口で言うのは簡単ですが、コイルの技術としては大きな壁があります。ここが SPARC の技術的な心臓部です。

超伝導体には、そこを超えると超伝導が壊れてしまう上限の磁場(上部臨界磁場)があります。ITER が使う Nb3Sn\text{Nb}_3\text{Sn}(ニオブスズ)などの低温超伝導体では、絶対温度 4 K(約 マイナス 269 度)まで冷やしても、実用上は 12〜13 T あたりが限界で、コイルとして扱える磁場はさらに低くなります。ITER の中心磁場が 5.3 T にとどまるのはこのためです。

SPARC が採用したのは REBCO(rare-earth barium copper oxide、希土類バリウム銅酸化物)と呼ばれる高温超伝導体です。REBCO はテープ状に加工され、20 K(約 マイナス 253 度)というやや高めの温度でも、20 T をはるかに超える強磁場の中で大きな電流を流せます。運転温度が高いほど冷却の余裕が生まれ、外乱に対する熱的な安定性も稼げます。

CFS は、この REBCO テープを何十枚も重ね、内部に冷媒を流すための銅製ジャケットに収めた VIPER と呼ばれるケーブルを開発しました。これにより、高い電流密度と、局所的に発熱しても超伝導が連鎖的に壊れない安定性を両立させています。

2021 年 9 月、CFS と MIT は、この技術で作ったトロイダル磁場コイル(プラズマを取り囲む主磁場コイル)の実寸大モデルコイルで 20 T の磁場を発生させることに成功しました。核融合炉の規模で 20 T 級の高温超伝導コイルが動くことを示したこの実証は、SPARC 計画全体で最も重要なマイルストーンと位置づけられています。装置の性能を左右する磁場が、机上の計算ではなく実物のコイルで裏付けられた瞬間でした。

このコイルを核融合装置に組み上げるには、真空容器、遮蔽、加熱・電流駆動、ダイバータ(熱と粒子の排気口)といった要素を、限られた小さな空間に収める必要があります。コンパクトであるがゆえに、部材にかかる熱や中性子の負荷が体積あたりで大きくなり、材料工学の面でも挑戦的な設計になっています。

研究の最前線(博士課程レベル)

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SPARC がねらう科学的な目標は、核融合利得(fusion gain) QQ の実証です。QQ は「核融合で生まれるエネルギー」を「プラズマを加熱するために外から注ぎ込むエネルギー」で割った値です。

Q=PfusPheatQ = \frac{P_{\text{fus}}}{P_{\text{heat}}}

Q>1Q > 1 は投入以上のエネルギーが核融合から出てくる状態、Q=Q = \infty は外部加熱なしでプラズマが自分の熱だけで燃え続ける点火(ignition)を意味します。SPARC は設計上、QQ が 10 程度に達しうる余裕をもって作られており、少なくとも Q>2Q > 2 を確実に達成することを実証目標に掲げています。

QQ が 5 を超えるあたりから、核融合で生まれるアルファ粒子(ヘリウム原子核)自身がプラズマを加熱する自己加熱(self-heating)が支配的になります。外からの加熱に頼らず、反応の熱が次の反応を維持する燃焼プラズマ(burning plasma)の領域です。この状態のプラズマがどう振る舞うか、アルファ粒子が引き起こす波動や不安定性がどう発達するかは、まだ実験データが乏しく、核融合物理の最前線の課題です。SPARC はこの領域に踏み込む世界で最初期の装置の一つになる見込みです。

現在研究が進められている主なテーマには、次のようなものがあります。急激にプラズマが崩壊するディスラプション(disruption)をどう予測し緩和するか、そこでは機械学習を使った予測やペレット(小さな氷の弾)の注入による緩和が検討されています。また、コンパクトな装置で桁違いに大きくなる熱負荷を、ダイバータでどう受け止めるかも重要な課題です。

SPARC の先には、発電の実証をねらう ARC 構想があります。ARC は Affordable, Robust, Compact(手頃で、頑丈で、コンパクト)の略で、SPARC で確かめた高磁場・高温超伝導の技術を、実際に電気を生む発電プラントへ発展させる計画です。ARC 構想では、コイルの外側を溶融塩 FLiBe(フリベ、フッ化リチウム・ベリリウムの溶融塩)で囲むブランケットが検討されています。FLiBe は、核融合で飛び出す中性子を受け止めて熱に変えると同時に、含まれるリチウムが中性子と反応して燃料のトリチウムを生み出す(トリチウム増殖)役割をねらったものです。液体であるため、装置の保守や交換をしやすくする狙いもあります。

論文を読むときに頻出するキーワードを、英語併記で挙げておきます。high-field pathway(高磁場アプローチ)、burning plasma(燃焼プラズマ)、HTS magnet(高温超伝導マグネット)、demountable coil(取り外し可能なコイル)、molten salt blanket(溶融塩ブランケット)などです。

問 1. SPARC が ITER より 70 分の 1 ほどの体積でも同等の核融合出力をねらえるのはなぜですか。
問 2. 出力密度が磁場の 4 乗に比例するという関係は、どのように導かれますか。
問 3. SPARC が低温超伝導体ではなく REBCO 系の高温超伝導体を採用したのはなぜですか。
問 4. 核融合利得 Q が大きくなると現れる燃焼プラズマとは、どのような状態ですか。
問 5. 後継の ARC 構想で検討されている溶融塩 FLiBe ブランケットの役割は何ですか。