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核融合とは

核融合とは、軽い原子核同士が結合して、より重い原子核になる反応です。このとき、わずかに減った質量がエネルギーに変わり、莫大なエネルギーが放出されます。このページでは、なぜ核融合でエネルギーが出るのか、なぜ実現が難しいのか、そして太陽と地上の核融合はどう違うのかを、高校レベルから博士課程レベルまで順番に積み上げて説明します。

まずは直感から(高校レベル)

Section titled “まずは直感から(高校レベル)”

原子の中心には、正の電気を持つ原子核があります。原子核は、陽子(proton)と中性子(neutron)が集まってできています。核融合とは、この小さな原子核同士をぶつけて、くっつけてしまう反応のことです。

ここで不思議なことが起きます。2 つの軽い原子核がくっついて 1 つの重い原子核になると、できあがった原子核の重さは、元の 2 つの重さの合計より少しだけ軽くなります。この「消えた重さ」がエネルギーに変わって出てくるのです。これが核融合でエネルギーが生まれる正体です。

「重さがエネルギーに変わる」というのは、アインシュタインの有名な式 E=mc2E = mc^2 が表していることそのものです。cc は光の速さで、とても大きな数です。だから、ほんのわずかな重さの変化でも、途方もない量のエネルギーになります。

では、なぜくっつけるのが難しいのでしょうか。原子核はどれも正の電気を持っています。磁石の同じ極同士が反発するように、正の電気同士も強く反発し合います。原子核を近づけようとすると、この反発する力がどんどん強くなり、まるで見えない壁に阻まれているようです。この壁をクーロン障壁(Coulomb barrier)と呼びます。

この壁を乗り越えるには、原子核をものすごい速さでぶつける必要があります。速く動く、つまり温度が高いということです。太陽の中心は約 1500 万度、地上で核融合を目指す装置ではおよそ 1 億度という、想像を絶する高温が必要になります。核融合を実現する難しさの本質は、この「壁を越えるための超高温」をどう作り、どう保つかにあります。

物理として理解する(学部レベル)

Section titled “物理として理解する(学部レベル)”

核融合でエネルギーが出る理由を、結合エネルギー(binding energy)で説明します。原子核をばらばらの陽子と中性子に分解するのに必要なエネルギーが結合エネルギーです。逆に言えば、ばらばらの核子が集まって原子核を作るときに放出されるエネルギーでもあります。

原子核の質量は、それを構成する核子の質量の合計より小さくなります。この差を質量欠損(mass defect)と呼びます。質量欠損 Δm\Delta m と結合エネルギー EbE_b は、次の関係で結ばれます。

Eb=Δmc2E_b = \Delta m \, c^2

この式は「失われた質量 Δm\Delta m に光速の 2 乗 c2c^2 を掛けたものが、放出されるエネルギーに等しい」と読みます。核子 1 個あたりの結合エネルギーを原子番号に対して並べると、鉄(56^{56}Fe)の付近で最大になる曲線が得られます。軽い原子核ほど核子あたりの結合エネルギーが小さいので、それらを融合させて鉄に近づけると、差の分だけエネルギーを取り出せます。これが核融合、逆に重い原子核を分裂させてエネルギーを得るのが核分裂です。

具体的に、最も実現しやすいとされる重水素(deuterium, D)と三重水素(tritium, T)の反応を見ます。

D+T4He+n+17.6 MeV\text{D} + \text{T} \rightarrow {}^{4}\text{He} + n + 17.6 \text{ MeV}

この反応では、ヘリウム 4 の原子核(アルファ粒子)と中性子 nn が生まれ、17.6 MeV のエネルギーが放出されます。このエネルギーは運動量保存則に従って 2 つの粒子に配分され、中性子が約 14.1 MeV、アルファ粒子が約 3.5 MeV を持ち去ります。

次に、なぜ超高温が必要かをクーロン障壁の高さから見積もります。電荷 Z1eZ_1 eZ2eZ_2 e を持つ 2 つの原子核が距離 rr まで近づいたときのクーロンポテンシャルエネルギーは、次のように書けます。

U(r)=14πε0Z1Z2e2rU(r) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Z_1 Z_2 e^2}{r}

ここで ε0\varepsilon_0 は真空の誘電率、ee は電気素量です。原子核が接触する距離(およそ数フェムトメートル)までこの式で近づけると、障壁の高さは数百 keV に達します。ところが、温度 1 億度に対応する熱運動のエネルギーは kBTk_B T でおよそ 10 keV 程度にすぎません。つまり、平均的な粒子のエネルギーは障壁よりずっと低いのです。それでも核融合が起きるのは、次の量子力学の効果があるからです。

理論を深める(大学院レベル)

Section titled “理論を深める(大学院レベル)”

古典力学では、障壁より低いエネルギーの粒子は決して壁を越えられません。しかし量子力学では、粒子はある確率で障壁を「すり抜け」ます。これがトンネル効果(quantum tunneling)です。核融合は、平均エネルギーが障壁より低い温度でも、トンネル効果によって有限の確率で進行します。

トンネル確率は、ガモフ因子(Gamow factor)によって近似されます。相対運動エネルギー EE の粒子が障壁を透過する確率はおおよそ次に比例します。

Pexp ⁣(EGE)P \sim \exp\!\left(-\sqrt{\frac{E_G}{E}}\right)

ここで EGE_G はガモフエネルギーと呼ばれる量で、原子核の電荷と換算質量で決まります。この式は「エネルギー EE が高いほど指数の中身が小さくなり、透過確率が急激に増える」ことを表します。反応のしやすさを表す断面積 σ(E)\sigma(E) は、このトンネル確率と、遅い粒子ほど衝突しやすい効果(1/E1/E の因子)を組み合わせて記述されます。

実際のプラズマでは、粒子はマクスウェル分布に従う速度を持ちます。反応の起こりやすさは、断面積 σ(E)\sigma(E) と相対速度 vv の積を速度分布で平均した反応率係数 σv\langle \sigma v \rangle で表されます。

σv=0σ(E)vf(E)dE\langle \sigma v \rangle = \int_0^\infty \sigma(E)\, v\, f(E)\, dE

この積分では、分布の高エネルギー側の裾で急減するマクスウェル分布と、低エネルギー側で急減するトンネル確率が掛け合わされ、両者の積が最大になる中間のエネルギー帯が反応に効きます。この帯をガモフピーク(Gamow peak)と呼びます。D-T 反応の σv\langle \sigma v \rangle は、およそ 1 億度から 2 億度の領域で実用的な大きさになり、これが目標温度の理論的な根拠です。

反応が起きる条件をさらに定量化すると、密度 nn、エネルギー閉じ込め時間(energy confinement time) τE\tau_E、温度 TT の 3 つを組み合わせた核融合三重積 nτETn \tau_E T が一定値を超える必要があります。これがローソン条件(Lawson criterion)の考え方で、詳しくは別ページで扱います。

研究の最前線(博士課程レベル)

Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”

核融合をエネルギー源にするための研究は、大きく 2 つのアプローチに分かれます。磁場でプラズマを閉じ込める磁場閉じ込め方式(magnetic confinement)と、燃料ペレットを瞬間的に圧縮する慣性閉じ込め方式(inertial confinement)です。前者の代表がトカマク(tokamak)やステラレータ(stellarator)、後者の代表がレーザー核融合です。

慣性閉じ込め方式では、2022 年 12 月に米国の国立点火施設(National Ignition Facility, NIF)で、投入したレーザーエネルギーを上回る核融合エネルギーを取り出す点火(ignition)が達成されました。これは科学的なエネルギー増倍(target gain)を初めて実証した成果として知られています。ただし、レーザー装置全体の電力効率を含めた実用炉への道のりは、依然として大きな課題として研究されています。

現在の主要な研究トピックには、次のようなキーワードが頻出します。プラズマ中の乱流輸送(turbulent transport)をどう抑えるか、燃料である三重水素を炉内で自給するトリチウム増殖(tritium breeding)、14 MeV の高速中性子に耐える構造材料(plasma-facing materials)、アルファ粒子による自己加熱でプラズマを維持する自己点火(self-heating / burning plasma)の物理などです。これらは実用炉の成立を左右する未解決問題として、世界中で研究が進められています。

論文を読むときには、断面積を integrated した反応率 σv\langle \sigma v \rangle、無次元化された規格化圧力を表すベータ値(beta)、閉じ込め性能を表すエネルギー閉じ込め時間 τE\tau_E、性能指標としての核融合利得 QQ などの用語が繰り返し登場します。これらの意味を押さえておくと、専門的な文献にも入っていけます。

問 1. 核融合でエネルギーが放出されるのは、原子核がくっつくときに何が起きるからですか。
問 2. 核融合を起こすのに超高温が必要なのはなぜですか。
問 3. 平均的な粒子のエネルギーがクーロン障壁より低いのに、核融合が進むのはなぜですか。
問 4. D-T 反応で放出される 17.6 MeV は、どのように配分されますか。
問 5. 太陽の核融合と、地上で目指す核融合の主な違いとして正しいものはどれですか。
  • 核融合反応の種類とエネルギー収支をさらに詳しく知りたい方は 核融合反応 を参照してください。
  • 核融合を持続させるための条件を定量的に学ぶには ローソン条件 が役立ちます。
  • 核融合研究がどのように発展してきたかは 核融合研究の歴史 で紹介しています。