ダイバータ
ダイバータ(divertor)は、核融合炉のなかで最も過酷な熱と粒子を受け止める機器です。プラズマから漏れ出す熱と、燃焼で生まれる「灰」をここへ集中的に導き、炉の外へ捨てます。このページでは、ダイバータがなぜ必要で、なぜ設計が難しく、いまどこが研究の最前線なのかを、直感から順に積み上げて理解します。
まずは直感から(高校レベル)
Section titled “まずは直感から(高校レベル)”ダイバータは、炉の「排気口」だと考えると本質がつかめます。
まず、核融合炉のプラズマは約 1 億度の超高温です。この熱をずっと閉じ込め続けたいのですが、完璧な魔法瓶は存在せず、必ず少しずつ熱と粒子が外へ漏れ出します。漏れた熱をどこかで受け止めないと、炉の壁が全面的に焼けてしまいます。そこで、漏れた分をわざと一箇所に集めて処理する専用の場所を作ります。これがダイバータです。
台所の換気扇を思い浮かべてください。料理の煙や熱を部屋全体に広げず、レンジフードの一点に吸い込んで外へ出します。ダイバータもこれと同じで、プラズマから漏れる熱と粒子を炉の底(多くの場合は下部)の限られた面に導き、そこでまとめて冷やし、灰を吸い出します。
集める対象は二つあります。一つは熱です。もう一つは「灰」です。核融合では重水素と三重水素が反応してヘリウムが生まれますが、このヘリウムは燃え終わったカスなので、放っておくと燃料の中にたまって薄めてしまいます。ダイバータはこのヘリウム灰を吸い出す掃除機の役割も持ちます。
ここで一番の悩みが「熱が狭い場所に集中しすぎる」ことです。漏れた熱が広い面積に薄く広がってくれれば楽なのですが、実際にはとても狭い帯に集まります。たとえるなら、太陽光を虫眼鏡で一点に絞ったときの熱さです。ダイバータの受け板には、ロケットエンジンの内壁に匹敵するほどの熱が押し寄せます。この集中をどう和らげるかが、ダイバータ設計の核心です。
物理として理解する(学部レベル)
Section titled “物理として理解する(学部レベル)”ダイバータを理解する鍵は、磁力線の形と、熱が流れる細い層の物理です。
セパラトリクスと X 点
Section titled “セパラトリクスと X 点”トカマクのプラズマでは、磁力線が作る面(磁気面)が二種類あります。一つはドーナツの内側で閉じてぐるぐる回る閉じた磁気面、もう一つは炉壁に突き当たる開いた磁気面です。この二つの境界を作る特別な磁気面をセパラトリクス(separatrix、分離面)と呼びます。
セパラトリクスができるのは、外部コイルの電流でポロイダル磁場(poloidal field、断面内をまわる磁場成分)を打ち消し、ある一点で を作るからです。この点を X 点(X-point)と呼びます。X 点の近くでは磁力線が X の字のように交差して見えます。X 点より内側は閉じた磁気面、外側は開いた磁気面になり、開いた磁力線はダイバータの受け板(ターゲット板)へとつながります。
つまり X 点は、閉じ込め領域と排気領域を切り分ける「分岐点」です。漏れ出た粒子は開いた磁力線に乗り、X 点を経由して確実にダイバータへ運ばれます。
スクレイプオフ層(SOL)
Section titled “スクレイプオフ層(SOL)”セパラトリクスのすぐ外側、開いた磁力線が占める薄い層をスクレイプオフ層(scrape-off layer、SOL)と呼びます。ここに乗った粒子は、磁力線に沿ってターゲット板へ流れ去ります。
粒子は磁力線に沿う方向(平行方向)には速く動きますが、磁力線を横切る方向(垂直方向)にはゆっくりとしか拡散しません。この二つの競争で SOL の厚みが決まります。平行方向の輸送が速いほど、垂直方向へ広がる前に板へ抜けてしまうので、熱が乗る層は薄くなります。実際、この厚み(熱流束幅 )はわずか数 mm しかありません。
熱流束の集中問題
Section titled “熱流束の集中問題”炉全体から漏れる熱を とすると、それがセパラトリクス沿いの細い帯に集中します。ターゲット板に垂直に届く熱流束 のおおよその大きさは、次のように見積もれます。
ここで は装置の大半径、 は熱流束幅、 は磁力線が板に当たる浅い角度です。分母に小さな (数 mm)が入るため、 は容易に 10 MW/m² 級まで跳ね上がります。これは太陽表面が放つ熱流束と同じ桁に達する水準で、そのまま板に当てれば材料の除熱限界を超えてしまいます。
そこで設計では二つの工夫をします。一つは を小さくすること、つまり磁力線をできるだけ板に浅く(数度で)当てて、熱が広い面に薄く広がるようにします。もう一つが次に述べるデタッチメントです。
理論を深める(大学院レベル)
Section titled “理論を深める(大学院レベル)”学部レベルの見積もりだけでは、実際の炉のダイバータは成立しません。プラズマを板に「触れさせない」運転と、そのための放射制御が必要になります。
デタッチメント(非接触プラズマ)
Section titled “デタッチメント(非接触プラズマ)”熱をそのまま板にぶつける運転をアタッチ(attached)と呼びます。これに対し、板の手前でプラズマの温度を数 eV 以下まで落とし、圧力と粒子束を大きく減らした状態をデタッチメント(detachment、非接触プラズマ)と呼びます。
デタッチメントでは、板の直前で複数の過程が連鎖します。プラズマ温度が下がると中性粒子との衝突が効き、荷電交換と電離・再結合が進みます。運動量は中性粒子との衝突で失われ(運動量損失)、エネルギーは放射と再結合で散逸します。その結果、板に届く前に熱と圧力の大半が抜け、ターゲットへの熱流束が桁で下がります。プラズマが板から「浮いた」ように振る舞うのが名前の由来です。
ただしデタッチメントは不安定になりやすく、デタッチ領域が X 点まで這い上がると閉じ込めを損ないます。デタッチメントの前線(detachment front)をターゲット近くに保つ制御が、運転上の重要課題です。
不純物入射による放射冷却
Section titled “不純物入射による放射冷却”デタッチメントを安定に維持するために、意図的に不純物ガスを入れます。窒素、ネオン、アルゴンなどを SOL やダイバータ領域に入射すると、これらの原子・イオンが線スペクトル放射でエネルギーを光として四方に散らします。これを放射冷却(radiative cooling)と呼びます。
放射で失われるパワー密度は、電子密度 、不純物密度 、そして温度に依存する放射損失関数 を使って次のように表せます。
は元素ごとに決まり、ダイバータの温度域で効率よく放射する元素を選ぶのが要点です。狙いは、板に集中する熱を、板の面ではなく広い立体角へ放射として逃がすことです。うまく制御すれば漏れ出た熱の大部分を放射で処理できます。一方で、不純物が主プラズマ中心まで入り込むと閉じ込めを冷やしてしまうため、ダイバータ領域に閉じ込める配位と排気の設計が欠かせません。
タングステンモノブロックターゲット
Section titled “タングステンモノブロックターゲット”材料側の解も理論の一部です。ターゲットのアーマ材にはタングステン(tungsten、W)が選ばれます。融点が約 3422 度と全金属で最高で、熱伝導率が高く、水素によるスパッタリング(弾き出し)が起きにくいためです。
ITER で採用されるのがモノブロック構造です。角柱状のタングステンブロックの中心に穴を開け、そこへ銅合金(CuCrZr)の冷却管を貫通させ、間を軟らかい銅の層で接合します。冷却管には加圧水を流し、内側にスワールテープ(ねじれた金属帯)を入れて乱流を強め、除熱を高めます。この構造で定常 10 MW/m² 級、過渡的にはさらに高い熱流束に耐える設計です。ITER のダイバータは 54 個のカセットに分割され、遠隔操作で交換できるようになっています。
異なる材料を重ねるため、接合部には熱膨張差による応力がかかります。この熱応力と、後述する中性子照射による劣化が、材料設計の二大制約です。
研究の最前線(博士課程レベル)
Section titled “研究の最前線(博士課程レベル)”ダイバータは、核融合の実用化で最後まで残る難所の一つとされ、活発に研究が続いています。
SOL 幅スケーリング
Section titled “SOL 幅スケーリング”最大の未解決問題の一つが、熱流束幅 が炉サイズでどう変わるかです。多くのトカマクの実験を集めた経験則(Eich スケーリングとして知られます)では、 はポロイダル磁場でほぼ決まり、装置の大きさにはあまり依存しないという結果が得られました。もしこれが大型炉でも成り立つと、ITER や原型炉(DEMO)でも は数 mm と極めて狭いままになり、熱集中がいっそう厳しくなります。
一方で、乱流輸送に基づく理論(heuristic drift モデルなど)や、より高性能な運転領域では が広がる可能性も議論されています。SOL 幅スケーリング(SOL width scaling)の外挿が成り立つのか、どの物理がそれを決めるのかは、原型炉設計を左右する中心的な研究テーマです。ここでは SOL の乱流を扱うため、プラズマの遮蔽長を理解するデバイ遮蔽のような基礎が土台になります。
先進ダイバータ配位
Section titled “先進ダイバータ配位”狭い を前提に、磁場配位そのものを変えて熱を薄める研究も進んでいます。
スーパー X ダイバータ(Super-X divertor)は、外側のダイバータ足を大半径の大きい外側へ長く引き伸ばす配位です。板の位置での磁場が弱く、磁束が広がるので受熱面が増え、さらに接続長が伸びてデタッチメントを起こしやすくなります。英国の MAST-U で実証実験が行われています。
スノーフレーク配位(snowflake configuration)は、X 点の近くに二次の零点を作り、 の領域を広げる配位です。X 点付近で磁束が大きく広がり、複数のターゲットへ熱を分配できます。名前は磁力線が雪の結晶のように見えることに由来します。
これらは有望ですが、余分なコイルや複雑な磁場制御を要し、炉全体との両立性が課題です。
液体金属ダイバータと過渡熱負荷
Section titled “液体金属ダイバータと過渡熱負荷”固体タングステンは中性子照射で脆化し、熱伝導率が下がります。この損耗と劣化を根本から避ける案として、液体リチウムや液体スズを流し続ける液体金属ダイバータ(liquid metal divertor)が研究されています。表面が絶えず入れ替わるため損耗が問題になりにくい一方、流れの制御や不純物の混入が課題です。
過渡的な熱負荷も残る難問です。周辺部のエネルギーが周期的に噴き出す ELM(edge-localized mode)や、プラズマが突然崩壊するディスラプション(disruption)は、瞬間的に材料限界を超える熱をターゲットに与えます。ELM の抑制・制御と、ディスラプションの回避・緩和は、ダイバータ寿命に直結する研究分野です。ダイバータの熱・粒子処理は、第一壁やプラズマ対向材料の設計とも密接に絡み合っています。