プラズマ対向材料
プラズマ対向材料(Plasma Facing Materials、PFM)は、核融合炉において高温プラズマに直接面する部品に使用される材料である。ダイバータや第一壁など、極めて過酷な環境に耐えながらプラズマ性能を維持する重要な役割を担う。
プラズマ対向材料には、耐熱性、スパッタリング耐性、低トリチウム保持という相反する要件が同時に課される。ダイバータでは定常運転時に 10-20 MW/m2 の熱流束を受け、ELM やディスラプション時には瞬間的に 1 GW/m2 を超えることもある。スパッタリングによる損耗は炉寿命を制限する主要因であり、トリチウム蓄積は安全上の制約となる(ITER では 700 g が上限)。
タングステン
Section titled “タングステン”タングステン(W、原子番号 74)は ITER ダイバータの表面材料として採用されている。融点 3695 K は全金属中最高であり、高原子番号のため重水素に対するスパッタリング閾値エネルギーが約 220-300 eV と高い。通常のダイバータプラズマ温度(5-30 eV)では物理スパッタリングがほとんど起こらない。水素同位体の溶解度も極めて低く、トリチウム蓄積量を抑制できる。
課題は高温での再結晶と脆化である。再結晶は 1200-1500 K で始まり、結晶粒の粗大化、硬さの低下、延性-脆性遷移温度(DBTT)の上昇を引き起こす。中性子照射も DBTT を上昇させ、炉の停止時に脆性破壊のリスクが高まる。酸化物分散強化(ODS)タングステンの開発が進められている。
ITER ダイバータは 54 個のカセットで構成され、タングステンモノブロック(厚さ約 6 mm)が銅合金ヒートシンクに接合されている。
ベリリウム(Be、原子番号 4)は ITER 第一壁の表面材料である。低原子番号のため、プラズマ中に混入しても放射損失への寄与が小さい。酸素ゲッター効果により残留酸素を低減し、プラズマ性能を向上させる。
毒性があり取り扱いには厳格な安全管理が必要である。高温で水蒸気と反応し水素を発生させるため、冷却材喪失事故時のリスクが懸念される。これが高熱負荷領域のダイバータではなく第一壁(0.5-2 MW/m2)に限定される理由の一つである。
炭素系材料(グラファイト、CFC)は融点を持たず昇華するため溶融飛散のリスクが低いが、化学スパッタリングにより炭化水素が生成され、低温面で再堆積する。この共堆積層は高濃度でトリチウムを含み、ITER 規模では数百ショットで蓄積上限に達すると予測された。これが ITER での炭素材料使用断念の主要因である。JET では 2010-2011 年にタングステン・ベリリウム化が実施され、トリチウム蓄積率は約 1/20 に低減した。
液体金属は自己修復性、対流熱伝達、照射損傷の回避といった利点を持つ将来概念である。リチウム(Li)は最も低い原子番号の金属で、壁ポンピング効果によりリサイクリングを低減できる。NSTX 等でエネルギー閉じ込め時間の 50-100% 向上が報告されている。錫(Sn)は化学的に安定で蒸気圧が低い。毛細管力駆動システムによる液体金属供給が研究されている。
中性子照射損傷
Section titled “中性子照射損傷”D-T 核融合反応で発生する 14.1 MeV 中性子は、カスケード損傷を形成し材料特性を劣化させる。照射硬化と DBTT 上昇、ヘリウム気泡による粒界脆化、熱伝導率低下が主な効果である。DEMO ダイバータでは年間 5-10 dpa に達すると予測され、照射後の DBTT は 700-1000 K まで上昇する可能性がある。
DEMO 以降に向けて、ODS タングステン、W-Re 合金、高エントロピー合金、SiC/SiC 複合材などの先進材料開発が進む。IFMIF-DONES は加速器駆動中性子源で 20-50 dpa/年の照射試験を行い、DEMO 設計に必要な材料データベースを構築する計画である。
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