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トリチウム管理

トリチウム(三重水素)は水素の同位体で、1個の陽子と2個の中性子を持つ放射性核種です。DT核融合の燃料として不可欠であり、その安全管理は核融合炉実用化の鍵となります。

トリチウムは半減期12.3年でベータ崩壊し、ヘリウム3に変換されます。放出されるベータ線の最大エネルギーは18.6 keV、平均5.7 keVと極めて低く、空気中の飛程は約6 mm、皮膚では数マイクロメートルにとどまります。このため外部被ばくは実質的に無視でき、内部被ばくが主な懸念となります。

比放射能は約360 TBq/gと高く、1グラムで約9,600キュリーに相当します。年間約5.5%が崩壊するため、長期貯蔵では減衰を考慮した燃料管理が必要です。

化学的には通常の水素と同様に振る舞い、水分存在下ではトリチウム水(HTO)を形成しやすい特徴があります。HTOは生体親和性が高く、吸入や経皮吸収により容易に体内に取り込まれます。

トリチウムの内部被ばくは化学形態により大きく異なります。分子状トリチウム(HT)はほとんど吸収されませんが、HTOは体水分と完全に混合し、生物学的半減期約10日で排出されます。有機結合トリチウム(OBT)はさらに長く体内に滞留します。

ICRP による成人のHTO吸入・経口摂取の線量係数は 1.8 x 10^-11 Sv/Bq です。尿中トリチウム濃度のモニタリングにより体内量を推定し、被ばく管理を行います。

トリチウム施設は多重障壁による閉じ込めを基本とします。第一障壁は配管・容器など直接取り扱う機器、第二障壁はグローブボックスや二重管構造、第三障壁は建屋です。各障壁は独立して機能し、単一故障が環境放出につながらない設計となっています。

施設内はトリチウム濃度に応じてゾーン分けされ、高汚染区域から低汚染区域へ向けて段階的に負圧を設定するカスケード換気により、汚染空気の逆流を防止します。

グローブボックスは不活性ガス雰囲気で運転され、酸素・水分濃度を10 ppm以下に維持することでトリチウム水生成と爆発リスクを抑制します。水素の燃焼範囲は4〜75%と広く、最小着火エネルギーは約0.02 mJと極めて小さいため、厳格な雰囲気管理が求められます。

漏洩トリチウムの除去には触媒酸化-水分吸着方式が標準的です。白金族触媒でHTをHTOに変換し、モレキュラーシーブで捕集します。除去効率は99.9%以上が達成されます。

水素同位体の分離には20〜25 Kでの低温蒸留が用いられ、沸点差を利用してH2、D2、T2を分離します。パラジウム膜透過法も水素選択透過による精製に利用されます。

貯蔵にはZrCo合金などの金属水素化物が用いられ、加熱により放出、冷却により吸蔵する可逆的な運用が可能です。

ITERではプラント内インベントリを4 kg以下に制限し、サイト境界での年間線量目標を10 μSv以下としています。貯蔵・供給系、排気処理系、同位体分離系、水蒸留系、雰囲気除染系から構成されるトリチウムプラントにより、燃料の循環利用を実現します。

DEMOではトリチウム自給自足が必須となり、ブランケットでのトリチウム増殖比(TBR)1.1以上が目標です。リチウム増殖材からのトリチウム抽出技術、連続運転に対応した大規模処理システムの開発が課題となっています。

職業被ばく限度は50 mSv/年(5年平均20 mSv/年)、公衆被ばく限度は1 mSv/年とされています。作業環境の空気中濃度限度はHTOで約10^6 Bq/m3オーダーです。

核融合施設は連鎖反応がなく受動的安全性が高いという特徴を持ち、従来の核分裂炉とは異なる規制枠組みの整備が各国で進められています。