慣性閉じ込め核融合
慣性閉じ込め核融合(inertial confinement fusion、ICF)とは、小さな燃料ペレットを強力なレーザーなどで瞬間的に圧縮・加熱し、燃料が慣性で形を保つごく短い時間の間に核融合反応を起こす方式です。
やさしい定義(高校レベル)
Section titled “やさしい定義(高校レベル)”磁場閉じ込めが「磁場のかごでプラズマをゆっくり保持する」のに対して、慣性閉じ込めは「一瞬で終わらせる」方式です。米粒ほどの小さな燃料の玉に、四方八方から強力なレーザーを一斉に浴びせます。すると玉の表面が爆発的に吹き飛び、その反動で中心へ向かう強い圧力が生まれ、燃料が一気に押し縮められます。この内向きの圧縮を爆縮(implosion)と呼びます。中心が太陽の中心をしのぐほど高温・高密度になった瞬間に核融合の火がつき、燃料が飛び散ってしまう前に反応を終わらせます。閉じ込めているのは磁場ではなく、物質が急には動けないという慣性そのものなのです。
詳しい定義(学部レベル以上)
Section titled “詳しい定義(学部レベル以上)”慣性閉じ込めでは、燃料が慣性で形を保つ時間 の間に十分な反応を得るため、閉じ込め時間の短さを圧倒的な高密度 で補います。ローソン条件に現れる を満たすうえで、磁場閉じ込めが低密度・長時間なのに対し、慣性閉じ込めは超高密度・極短時間という正反対の方針を取ります。爆縮では固体密度の数百倍から千倍程度まで燃料を圧縮し、中心に生じた高温領域(ホットスポット)で点火させ、周囲の低温燃料へ反応を燃え広がらせます。
エネルギーの届け方には 2 通りあります。直接照射(direct drive)はレーザーをペレット表面へ直接当てる方式で、エネルギー効率が高い一方、照射の一様性を保つのが難しくなります。間接照射(indirect drive)はペレットを金属製の小筒(ホーラム)の中に置き、レーザーで筒の内壁を加熱して発生する X 線で爆縮させる方式で、一様性に優れます。米国の国立点火施設(National Ignition Facility、NIF)は間接照射を採用しています。
核融合における役割
Section titled “核融合における役割”慣性閉じ込めは、磁場閉じ込めと並ぶ核融合の二大アプローチの一方です。2022 年 12 月、NIF は投入したレーザーエネルギーを上回る核融合エネルギーを取り出す点火(ignition)を人類史上初めて達成し、核融合が科学的に実現可能であることを示しました。この成果は核融合研究全体にとって大きな節目となり、慣性閉じ込めを発電へつなげる工学的課題への関心を高めています。